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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の(むかしの)約束

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「で、去年ネットで、まだキクちゃんが大学にいるか調べたんだけど、どこにも名前載ってなくて、お祖父さんの名前ばっかりヒットするんだよ。結婚して苗字が変わってても、貴久子で検索すれば出てくると思ったのに・・・ところで、今の苗字何て言うの?」
「ふふふ。聞いて驚くな。私も今は『木田。木田貴久子』なの」
「えっ? どういう? えっ? 木田さん? 木田さんと結婚したの?」
「そうなってしまったのよ。後悔してるわ」
「別れたんじゃなかったの?」
「あなただって、知ちゃんと別れてたでしょ?」
「そりゃそうだけど、意外だな」
「ヒロ君は私の彼氏が誰だか分かってたのね」
「うん、藤達也に似た職員さん」
「そうか。知ってたのかぁ」
「あの木田さんもまだ大学に?」
「ううん。もう定年退職したわよ。とっくに」
「あ、そうか。もう七十歳ぐらいですよね。木田さんで木田になったのかぁ。僕が木田にしてやりたかったのに」

「そろそろ、お雑炊にされますか?」
仲居が顔を出して聞いた。
「あ、そうですね。もうお腹キンキンですけど」
「私もう少し、スープを飲みたいわ」
「スープはお足ししますよ」
手際よく皿を片付けながら、仲居は話したが、
「この煮詰まったやつが格別なんじゃないですか」
キクちゃんは、さすがに常連さんよろしく、煮詰まったスープをすくい取った。

 仲居が雑炊を作る間、私は山戸さんの話しをした。
「それで、今はその事務所のご意見番みたいなことしながら、企画部の部長になってます」
「へえ。よかったじゃない。そんな人と知り合えて」
「それも全部キクちゃんのおかげなんですよ。キクちゃんが僕を教育してくれていたおかげで、そんな人に引き抜いてもらえるようになったんですから」
「じゃ、権利的にもらってるって言うお金、少し分けてもらいましょうか」
「それは女房に握られてますので、難しいなぁ」

「まあ、景気のいい話ですね」
「いえいえ、そんなことはないですよ。すずめの涙ほどの金額です」
仲居は話に入って来ないで欲しいところだけど。