聞く子の(むかしの)約束
仲居が退室してから、
「そんなに来てたんですか?」
「ええ、友達とか家族とも来たわ」
「僕は25年ぶりですよ。キクちゃんと来て以来です」
「主人もここの味すごく気に入ってるの」
「・・・ご主人さんて、誰ですか?」
「もう、なんて聞き方するのよ」
「すみません。それがすごく気になってて、やっぱり、お見合い相手ですか?」
「え? そんな話あったっけ?」
「卒業間際で、お見合いするって、言ってたじゃないですか」
「あ、なんか思い出した。でもお見合いなんてしてないわよ」
「すごく笑いながら言いますね。僕その時、キクちゃんを諦めたんですよ」
「え? そうだったの?」
「ま。僕にそんな可能性なんか無かったでしょうけど」
「えー? それ知ってたら、考えたのにな」
「それ冗談でしょ?」
「えへへ。ちょっとマジだったかもよ」
「はっきり言って、キクちゃんは僕が卒業したら、どうするつもりでしたか?」
「うーん。正直に言うわね。ヒロ君にその気があったのなら、付き合いたいと思ってたわ」
「そうでしたか。もっと早く言ってくれていたら、人生が変わっていたと思うのに」
「さすがに、うちの学生とは付き合えないでしょ。でもそんなこと卒業したらもう関係ないし、でも結婚は別よ」
「あ、やっぱり」
「ヒロ君と結婚しようなんて考えられなかったよ。あなたは、いつ結婚したのよ?」
「28の時です」
思わず吹き出しそうになるのを我慢しながら、
「誰だと思います?」
「うん? 私の知ってる人?」
「はい」
「・・・知ちゃんね?」
「分かります?」
「そうかぁ。よかったぁ。どこの馬の骨か分からない娘じゃ無くって」
「どういう意味ですか」
「心配してたのよ」
私は、知子と結婚までの困難の日々を語った。
作品名:聞く子の(むかしの)約束 作家名:亨利(ヘンリー)