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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の(むかしの)約束

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第4章 久しぶりー



 今年、ゴールデンウィークの雨の降る晩、予約した料亭に向かった。服装は、ビシッとしたスマートエレガンスで決めて、花束も持参した。
 約束時間の30分前に着いて、しばらく店の軒先に立っていたら、10分もせずにその前にタクシーが停まった。中にはキクちゃんがいた。キクちゃんは私を見るなり、顔を真っ赤にして笑い出した。私も笑わずにはいられなかった。
 それと同時に私は、キクちゃんのために傘を開こうとした。しかし彼女は、先に降りてしまった。以前のキクちゃんなら、タクシーの中で、私の傘を待つはずだったが、この時は、もうそんなエスコートは忘れていたのか、気持ちが先走ったのか、少し濡れながら、近寄る私の傘に駆け込んだ。

「ヒロ君、久しぶりー」
「キクちゃん、久しぶりー」
「あんまり変わんないよね」
「キクちゃんは、太っちゃったの?」
「もう失礼ね。ちょっとだけよ」
「ごめんなさい。はいこれ。花束買って来ましたっ!」
「心遣い、ありがとう、ご・ざ・い・ます!」
キクちゃんは、嬉しそうにそれを受け取った。その時、キクちゃんのMiu Miuのバッグを私が預かり、彼女と腕を組めるようにした。25年間のブランクを全く意識しないくらいに、自然なやり取りだった。
 私は相変わらず美しくセレブっぽいキクちゃんを見て、正直な感想は、『年を取ったなあ』だ。

 この店は私が学生時代のアルバイト先の専務に連れて来てもらって、あまりの美味しさに、キクちゃんにも紹介して、二人で来たことがあるお店だ。彼女はこの店の鶏ガラで出汁を取った、水炊きの白いスープがすごく気に入っていたはず。

 店に入ってからは、私が先に歩いて廊下を進んだ。部屋の襖を仲居が開けると、キクちゃんを先に入らせる。そして素早く、バッグを座卓の側に置いて、キクちゃんを上座へと誘導する。すべて学生時代に覚えた手順のままだった。そして私は向かいに座って、少し畏まった。なぜなら、あの頃はキクちゃんの隣に座らせてもらうことが多かったから。
 
 私たちは向かい合わせになると、少し気恥ずかしく感じて、しばらくは仲居の話に耳を傾けた。
「この店初めてですか?」
「いえ、以前来たことがあります」
「何回くらいですか?」
「僕は何回か来ましたけど・・・」
「私も5回ぐらい来てるわ」
「おほほ、もう常連さんですね。じゃ、細かい説明は要りませんですね」