ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第三章
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「どこへゆくの?!」
濡れ縁に腰掛け、草履を履いた権兵衛に妙が鋭い声をかけてきた。
「まさか、このまま……」
妙があとの言葉を呑み込む。
「いや、呑みにゆくだけだ」
権兵衛はわざとそっけなくこたえた。
「うちで呑めばいい……」
妙の顔はいつにも増して不安そうだ。
「あたし、なんかあのひとたち……」
「嫌いなのはオレも同じだろう」
「あんたは嫌いだけど……あのひとたちは……」
いおうかいうまいか、妙は珍しく口をもごもごしている。仮にも夫が苦労してみつけてきた用心棒たちだ。
「あのひとたちは……なんだ?」
「こわい」
怯えをはっきりと顔にだして妙がいった。
妙の感覚は権兵衛にもわかる。剣客のふうを装っているが、荒んだ雰囲気とさもしさが顔や態度にあらわれている。
こちらの出方次第では、どうとでも転ぶ輩だろう。
「ちょっと一刻遊んでくるだけだ」
権兵衛はそういうと屋敷門をくぐって出ていった。
作品名:ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第三章 作家名:松浪文志郎