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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第三章

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太兵衛、ハナと一緒に屋敷にもどると、居間には見慣れない四人の男たちがいた。
権兵衛と同じ風体の浪人態の男が三人と、もうひとりはこの家の跡継ぎらしき男だ。ハナが「おとっつあん」と叫んで懐に飛び込んでいる。
権兵衛はこの男の顔と態度を観察した。ハナの父親ということは妙の亭主でもある。
薄い眉に細い顔。娘との再会に相好を崩しながらも、瞳はどことなく落ち着きがなく、こめかみはなにを気にしてかぴくぴくと震え、気の小ささがうかがえる。

「ハナ、おとっつあんたちは大事な話があるから、奥の部屋にいって遊んでおいで」

「はあい」

跡継ぎの男が父親然といったふうをつくろってハナを追い払う。
無邪気なハナの姿が消えると、場は一気に重くなった。

「……では太一郎、このご浪人さまたちが助太刀をしてくれるというんだね」

太兵衛から太一郎と呼ばれた跡継ぎは、こくりとうなずくと、

「江戸では“地獄の三羽烏”と呼ばれた剣客で――」

「オレも江戸あたりから流れてきた口だが、“三羽烏”なんて聞いたことないぞ」

権兵衛が太一郎を遮って横槍を入れた。
三羽烏とやらの身なりはぼろぼろで、まさに食い詰め浪人といった態だ。

「三莫迦烏の間違いじゃないのか?」

「貴様、我らを愚弄する気か?」

眉間に薄く傷のある男――岩尾重蔵と名乗った男が右に置いた大刀をひっつかむ。

「まあまあ、助太刀さま同士でいがみあうのはおやめくだされ。せがれ太一郎も申し上げたかと思いますが、この辰澤村は黒鉄の虎造と申すヤクザどもに狙われております。ここは一致団結して村を守っていただきとう存じます」

太兵衛が用心棒たちをぐるり見渡すと、深々と頭を下げた。

「まあ、庄屋さんがそういうのなら……我らは買われた身ゆえな……」

頬骨の張った男――塚田伝兵衛が興奮した岩尾重蔵の肩を抑える。

「とにかく、仲良くやろうではないか、ご同輩」

偏平な鼻と分厚い唇の男――梶木源内が意味ありげな笑みを権兵衛に向けた。おまえもカネとメシにありつきにきた同類だろう……と、いわんばかりだ。

「だが、権兵衛さんを含めまだ四人。黒鉄の虎造は数十人の乾分どもを引き連れ、掛川に帰ってきたそうです。それに虎造には凄腕の例の用心棒もいますので……」

太兵衛が一気に不安を口にする。

「凄腕の用心棒……?」

そんなやつが向こう側にもいるのか? 権兵衛が気になってその用心棒の名を聞こうとすると、

「なあに、あやつはたいしたことござらん。我らは気賀で対峙したことがありますれば」

梶木が飛んできたハエを振り払うような仕草でいう。

「そうそう、見かけ倒しの姑息な男でした。我らと数合剣を交えただけで怯えて逃げ去っていきましたわ」

「そのとおり、我らが味方した引佐の松五郎一家はただ単に数に押され、敗れたに過ぎず」

岩尾と塚田はさも無念そうに肩を落とす。
どうも言葉のひとつひとつが芝居がかっている。おのれをおおきくみせようとの意図が透けてみえる。

「安心してくだされ。いましがた江戸の門弟たちに文をだし申した。早飛脚を使いましたので、近いうちにおっとり刀で駆けつけてくれるでしょう」

がっはっは、となにがおかしいのか梶木たちが声をたてて笑う。
権兵衛は黙って聞いているのが苦痛になって、そっと席をはずした。