平凡の裏側
報告
浅井家のリビングで、信子と典子は真剣な表情で向き合っていた。
「どうしてそんな勝手なことをしたの!」
「じゃあ、シンコはあのままにしておけた? 相手の住所や名前がわかった以上、興信所を使ってでも調べようとするんじゃない?」
「そんな、ただ道を聞いただけかもしれない相手に、そんなことするわけないじゃない」
「今さらそんなことを言うの? 張り込みまでしておいて」
「それはテンコが強引だったから……」
「で、もう気がすんだということ? じゃ、何も話す必要はないわね」
その日の朝、典子から大事な話があるという連絡が入った。会ってから話すという典子に、気を持たせずに要件を言うように迫って聞いた話が、なんと、三枝奈緒子と話をしたと言うものだった。ビックリ仰天した信子は、典子が来るのをはやる思いを抑えて待ち受けていた。
「とにかく、会うことになった経緯から話してよ」
「そうね、ここまで話したら、全部話さなくちゃね」
典子の話は次のようなことだった。
――自宅の前に公園があったら子どもを遊ばせるだろうと、次の日、またあの公園に出かけてみた。ひとりの方が自然だし、女を目の前にして信子が冷静さを保てないと思い、あえて信子を誘わなかった。しばらくブランコをこいでいたら、奈緒子が子どもを連れて現れた。隣同士でブランコをこいでいるうちに、世間話が始まり、話の流れで子どもに、
「パパ好き?」
と聞いてみると、困ったように下を向いた。すると、母親が、この子の父親は事故で亡くなったが、その時、世話になった関係者のひとりが、とてもよくしてくれて、今でも時おり、訪ねてきてはこの子の相手をしてくれると言った。その人のことをパパ、と呼んで困るとも――
「そういうことだったのよ」
典子はこれですべては終わったかのように、お茶を飲んだ。信子も、心から安堵して、典子に礼を言った。
「テンコ、本当にありがとう。確かに、私今日にでも興信所を探してみようと思っていたの。テンコは何でも御見通しね」
「でしょう? 興信所なんか使ったら、照之さんの潔白が証明されても、シンコの中に疑ったという罪の意識がずっと残ってしまうわ」
「ホントそうだわ。テンコ様様。私たち夫婦の救世主」
典子の視線がわずかに泳いだことに気づかず、信子は嬉しさを噛みしめてお茶をすすった。