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平凡の裏側

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張り込み

      
「あら、ちょうどいい所に公園があるじゃない」
 浅井信子と清水典子は、例の曲がり角を曲がって、あの日照之が見知らぬ女と立っていたアパートの前にいた。
 
 
 その二時間ほど前、ふたりは電話で話していた。
「そんなに気になるなら、これからその場所へ行ってみましょうよ」
 典子のとんでもない提案に信子は驚いて言った。
「ええ! これから!」
「そうよ、ここでああだこうだ言ってたって仕方ないじゃない」
「でも、そんなに都合よく主人がやってくるとは思えないし……」
「そんなの行ってみなければわからないじゃない。もしかしたら相手の女のことが何かわかるかもしれないし」
「だってこの前、テンコは道を尋ねているだけかもしれないって言ってたじゃない!」
「そう信じたいけど信じられない、だから、こうして何度も私に電話をしてくるのでしょ?」
 そう言われると、信子は返す言葉がなく、ふたりはこの場所を訪れることになった。
 
 
 アパートの前には、小さな児童公園があり、そこにあるベンチにふたりは腰を下ろした。そこは入り口の正面で、両脇の木の茂みの間からちょうどアパートが見える絶好の場所だった。
「こんな所に座っていたってしょうがないんじゃないかしら……」
 不満そうに言う信子に、典子は腰を据える覚悟をしたかのように答えた。
「あのアパートのどの部屋かわからないんでしょ? 運を信じて待つしかないわね」
「え、そんな~」
「あら、刑事だって探偵だって、こうやって時間をつぶして、無駄足になることも多いのよ」
「テンコ、詳しいのね」
「ドラマでよくやってるじゃない」
 するとそこへ、幼児の手を引いた女が帰ってきた。あまりのタイミングの良さに、ふたりは驚いて顔を見合わせた。
「シンコって強運の持ち主ね」
 典子はその女から目を離さずに囁いた。
「あの女でしょ?」
「ええ、子どももあの時の子だわ。でも、これからどうするの? まさか一週間前に男に道を聞かれたかって聞くわけにもいかないでしょ?」
「そうねぇ。とりあえず名前を確かめましょう」
 ふたりは、親子が入っていった一階の右側の部屋の前に行き、表札を確かめた。そこには、『三枝奈緒子』と書かれていた。夫の名前はなく、母子家庭のようだった。
 その時突然、隣のドアが開いて、中年の女が出てきた。不審そうな目つきでこちらを見たので、気が動転した信子は思わず目をそらしたが、典子は落ち着いた様子でこう言った。
「青空生命の者ですが、奥さま、保険にはお入りですか?」
 すると、中年の女は、迷惑そうな表情を浮かべ、そそくさと出かけていった。
「テンコ、すごいわねぇ」
 ひたすら感心する信子に、典子は得意気に言った。
「ドラマでよくあるシーンよ」

作品名:平凡の裏側 作家名:鏡湖