平凡の裏側
今日は五年ぶりに、またママ友の会が開かれる日だった。
この歳で五年という歳月はかなりシビアだ。どれだけ時間をかけても、みんなの前に堂々と出られる姿だと、自分を納得させるのは難しい。悪戦苦闘の末、何とか妥協して家を出た。
五年前と同じ店に同じメンバーが集まった。しかし、みなそれなりに歳月を重ねていた。互いにそれを認め合い、安心し合い、久しぶりの語らいを楽しんだ。そして、会はお開きとなった。
外に出ると、メンバーの一人が思い出したように言った。
「そういえば浅井さん、前の時、ここでご主人を見かけたのよね。あれから、どうしたの? お食事でも?」
「ええと、どうだったかしら……」
「やだ、もう忘れたの。五年前のことも忘れるなんて、まだ早いわよ」
忘れるわけはない、でも説明するような話でもなかった。
みんなと別れると、信子はふと、あの場所へ行ってみようかと思いたった。あれから五年、もう照之がここを訪れることはないだろう。あの時の子どもも小学生になっているだろうから、仕事上で手を差し伸べた親子と関わるはずはない。
そう思いながら角を曲がると、あの時と同じ風景があり、そこには誰の姿もなかった。
信子は前の公園に入り、あの時と同じベンチに座った。典子と探偵まがいに張り込んだりして、なんて馬鹿なことをしたのだろう、そう思うと可笑しくなってきた。思い出し笑いなんかして恥ずかしいと思い顔をあげると、公園の前の道を見慣れた姿が歩いている。照之だった。
信子は慌ててベンチから立ち上がると、小走りで公園の入り口に向かった。そして、入り口を出たところで、照之と鉢合わせをした。
言葉も出ないほど驚いた様子で信子を見つめる照之に、信子は言った。
「驚いたのはこっちよ。まだ、ここに来てたの? まさかまだ通っているとは思わなかったわ」
ちょうどその時、アパートの右の部屋のドアが開いて、三枝奈緒子が出てきた。それを見ると、信子はさっとそちらへ歩み寄り、笑顔で挨拶をした。
「浅井の妻です。こちらには以前から……」
みるみる奈緒子の顔色が変わり、その様子に驚いた信子は言葉を飲み込んでしまった。すると駆け寄ってきた照之に信子は腕を掴まれ、奈緒子の部屋の中に押し込まれた。
何が何だかわからない。信子は奈緒子の部屋で二人と向かい合って座ったが、異様なその雰囲気に、信子はまだ事態が呑み込めずにいた。
「あなた、どうしたっていうの?」
すると、照之は、突然頭を下げた。
「すまん、本当にすまん」
「いったい何を謝ってるの?」
照之の隣で奈緒子も畳に頭をこすりつけ、体を震わせている。
「お前を傷つけるつもりはなかった。絶対にわからないようにしてきたつもりだった」
「…………」
ふたりのただならぬ様子に、ようやく信子は自分の置かれている状況に気づいた。このふたりはただの関係ではない! 信子の表情は先ほどまでと一変し、抑えようのない怒りで声が震えた。
「事故がきっかけだったのよね?」
「事故って何だ?」
典子から聞いた話と違う。何がどうなっているのだ? 信子はこの場から一刻も早く逃げ出したい衝動と戦いながらさらに尋ねた。
「じゃ、きっかけは?」
「元の部下だ」
信子はもう限界だった。唇を噛みしめ、アパートから飛び出した。