平凡の裏側
激震
五年の歳月が流れた。
大学生になった梨央がこの年、二十歳を迎えた。
その梨央が大学のサークル活動で遅くなると伝えてきたある晩、浅井家のリビングに、父照之と母信子、そして長男隼人の三人が顔を揃えていた。そして、設計事務所に勤めて四年になる隼人が、照之の申し出に異を唱えた。
「何も二十歳になったからって、打ち明ける必要はないんじゃないか!」
すると照之が言った。
「でも、いつかは話さなければならない。二十歳というのはいい節目だと思う」
「いや、何も今波風立てることはないよ。今まで通りでいいじゃないか。梨央が結婚するとか、必要なことが起きた時に知らせればいいんだ」
隼人はなおも食い下がった。
「でも、落ち着いている今だから、梨央も受け止められると思うんだ。何かの時に紛れて聞かされても梨央のためにはならないんじゃないか? それに梨央が二十歳になった時、というのは母さんとの間で初めから決めていたことなんだ、な、母さん?」
「母さんはどう思うんだ?」
黙り込んでいる信子に隼人が迫った。しかし、信子はすぐに答えない。しばらくしてから、ひとり言のようにつぶやいた。
「私……できることなら知らせたくない、それもずっと……」
並々ならぬ信子の様子に、二人は押し黙った。
「そうか……まあ、母さんがそう言うなら、当分は今のままで行こう」
照之のこの一言で、家族会議は終わった。
翌日、隼人は久しぶりに晴れ晴れとした気分だった。梨央が二十歳になり、いつ両親が梨央に実の子ではないという真実を打ち明けるかと気が気ではなかったのだが、当面その心配はなくなったからだ。
梨央は、母の妹、妙子の子。つまり、隼人と梨央は兄と妹ではなく、従兄妹同士だ。それを知ったら、梨央はどんなに驚くだろう……俺から遠ざかっていくかもしれない。それが何より怖かった。今のままがいい。ずっと今のままが――
信子も、隼人と同じ気持ちだった。
梨央は、出産で亡くなった妹の代わりに、自分が赤ん坊の頃からずっと育ててきた。もう我が子と何ら変わりはない。父親である照之は、男だからあくまでも育ての親なのだ。女の、それも母親の気持ちなどわかるわけがない。