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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第二章

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「なにはともあれ、拓蔵とかいう親分はあの世に逝った。どんな問題があったかは知らぬが、これで枕を高くして眠れるというものだろう」

権兵衛がおおきく伸びをしながら、あくび交じりにいう。

「それがそうでもないのじゃ」

太兵衛がまたもとの暗い陰鬱な表情にもどって視線を畳に落とす。

「どういう意味だ? 街道一の大親分とやらは死んだのだろう?」

「口縄の拓蔵には、黒鉄の虎造という懐刀がいるのよ」

妙の声が微妙にふるえている。膝の上で両の拳をぎゅっと握り締める。

「黒鉄の虎造?」

「黒鉄の虎造はいま、気賀の縄張りを任されていて、奥浜名一帯に根を張る引佐の松五郎一家と抗争を繰り広げているの。近々出入りがあるということで、拓蔵のところの乾分も大勢気賀に駆り出されていてひとがいなかった。
それが今度のことで大勢乾分たちを引き連れてもどってくることは間違いない。本当に怖いのは拓蔵なんかじゃない。拓蔵を遠州一の大親分に祭り上げた黒鉄の虎造なのよ」

「……なるほど。だから拓蔵は少ない人数で乗り込んできた…というわけか。
だがなぜだ? なんで拓蔵は因縁をふっかけにきた? 失礼だが、こんなひなびた村にお宝が眠っているとも思えん」

「いや、お宝が眠っておるのじゃ」

太兵衛はぼそり、呟くようにいうと、傍らの妙を見やった。

「権兵衛さんに案内しておやりなさい」