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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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目的地の現在(いま)

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 ごく小さな演奏会の余韻も静まったところで、ヤスキがアヤセに尋ねた。
「ところでアヤセくん」
「はい」
「君、ここに来るまでどんな道を通った?」
 ヤスキの質問を受けて、アヤセの目はわずかに上を向いた。
「えっと…何か真っすぐな道を通ったのを覚えてます」

(俺のときと違う…)
 そんな思いが、ヤスキの心をよぎった。彼自身は、強風吹き荒れる荒れ野の中、曲がりくねった長い道を苦しみながら歩いてこの「目的地」に来たのである。
「途中で何か道が分かれてて、俺は真っすぐの道を通ったんですけど、ずーっと真っすぐで。で、しばらく歩いたらこの地に着いたって感じですね、はい」
 話を聞いたナツハが言った。
「私もあなたと同じような道を通ったわ」
 アヤセが彼女の顔を見ると、彼女はうなずいた。
「道を歩いている間、私はヤスキくんのことを考えてたの。彼はどんな道を通ってるのかしら、そして、彼にまた会えるときはいつかしら、って」
(えっ、そんなことを考えてたんだ?)
 ヤスキは彼女を横目で見ると、分かりやすいぐらいに照れ笑いをした。

 すると、今度はアヤセが話しだした。
「俺は…俺を痛い目に遭わせた人のことを考えてました」
「えっ、その人が何かひどい目に遭えばいい、とか考えてたの?」
「いや、むしろ逆です」
 アヤセの返答を聞いて、ヤスキは良い方向の衝撃を受けた。
「ええっ、逆って…」
「そりゃ、あの道を歩きはじめたときは、相手を強く恨みました。でも、その人もきっと、俺のことで苦しんでると思う。だったら、恨み続けるのは余計にその人を苦しめることになるんじゃないか。そう思って、相手を恨むのをやめました」

 (自分を痛い目に遭わせた人に心を配るなんて、何て心が広く、清い子なんだ…)
「アヤセくん、君…立派な人だよ…」
 ヤスキは、アヤセの優しさと気高さに、それしか言えなかった。ナツハは、小さく拍手をした。彼らには、この美青年が真っすぐな道を通って「目的地」に来た理由が分かった気がした。