目的地の現在(いま)
ナツハは、優しきアヤセに愛おしさを感じ、抱擁した。彼は少し困惑した顔を見せたが、小さく笑った。
「あなたのような人に会えて、私はとてもうれしい」
ヤスキも、彼に優しいまなざしを向けた。
「その相手の人とも、いつかこの地で会えるさ。俺たちの『目的地』は一緒なんだ」
「そうですね。そのときは、ナツハさんみたいに、強く抱き締めたいな」
アヤセは、穏やかにそう言うと、両目を閉じた。
― 春よりも春を感じる空気が彼らを、そしてこの地全体を包んでいた。
作品名:目的地の現在(いま) 作家名:藍城 舞美