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道標(『再会箱』スピンオフ)

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 そして、俺達二人は不思議なライバル関係について、晩秋の風が吹きぬけるスタンドで、初めて、そして親密に語り合った……。

 結局、牧田とはそれっきり一度も会っていない。
 高校が別々なのだからどこに進学したのかも知らないし、俺は陸上競技場とは無縁になってしまったから、彼が陸上を続けたのか、俺と同様やめてしまったのかも知らない。
 高校時代の二年間だけ、お互いに意識しながらも話す事もなかったライバルとの、たった一度の接点……それがあの日のスタンドでの語らいだった。
 それ以来競技としてのスポーツをしなかったこともあって、あの出来事はやけに印象深く俺の中に残っていた、そして、再会箱に入れた紙に書いた名前、それこそ『牧田千昭』だった。

 『再会箱』の力での再会は一度だけ。
 僧侶はそう言っていた、しかし、当然のことながらその後の三ヶ月、俺は仕事で牧田と毎日のように打ち合わせをし、自然な流れで酒も酌み交わした。
 そして、牧田もトレッキングを趣味にしている事を知り、それ以後、しばしば一緒に楽しんでいる。

 ほとんど眉唾に思っていた『再会箱』の力はもちろん信じないわけには行かないが、その後も交流を続けているのは僧侶の言葉とは違う。
 しかし、運命を捻じ曲げたとは到底思えない、誰がどう見てもごく自然な成り行きだ。
 牧田に『再会箱って知っているか?』と訊いた事はあるが、答えはノーだった、あるいは『再会箱』の力を借りなくても再会する運命だったのかもしれない。
 いずれにせよ、同じ趣味を楽しめる大事な友人を得られたことには変わりはないのだから、『再会箱』に感謝を伝えるのはやぶさかでない。
 俺は牧田を誘って、再びあの山道を歩いてみた。
 しかし、なんとなく予想していた通り、あのお寺を示す道標などなかった。

「おい、何してるんだ? 急に立ち止まって手を合わせたりして」
「ああ、まあ、こっちの事だ……あ、でも、お前も一緒に手を合わせてくれないか?」
「なんだよ、それ……」
 笑いながらも牧田は俺の隣に立った。
 そして、あのお寺があるはずの方向に二人で手を合わせた。

「さあ、行こうか」
「なんだよ、今のは何だったのかを教えてくれないのか?」
「ははは、友達の間でも少しくらいの秘密はあったほうがいいのさ、それは知ってるだろう?」
「ははは、それもそうかも知れないな……それにしても、いい風だな」
「ああ、なんとなくあの日の風を思い出すよ」
「スタンドに吹いていた風……だな?」
「そうさ……さあ、そろそろ日が暮れるぞ、秋の日はつるべ落としと言うからな」
「ああ、あの日もバスに乗った時はもう真っ暗だったのを思い出すよ、少し急ごう」
 牧田も手を合わせたわけをそれ以上は聞かず、俺達はまた一緒に歩き始めた。
 


(終)