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松浪文志郎
松浪文志郎
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第一章

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4

「あんた……鍼医者なのか?」

紙入れから小判ならぬ金の鍼を取り出した権兵衛に向かって太兵衛がきいた。
蝋燭の明かりを受けて文字通り黄金色に輝く鍼は、いかにも値が張りそうな逸品のようだ。

「オレは貧乏旗本の三男坊でね。養子にいって窮屈な思いをするよりはと、剣の道を志したのだが、天稟とやらがいまひとつだった。
だから、そうそうに剣をあきらめ、医者にでもなろうかと、鍼医のもとに内弟子として住み込んだんだ」

権兵衛が話している途中で、湯を張ったタライを抱えて妙がやってきた。
権兵衛は手拭を湯につけ、軽く絞ると半裸にしたハナの体を丹念に拭く。
妙は思わず権兵衛の手元をにらんだ。
ハナになにかあったらただじゃおかない。
胸元にしまった出刃包丁を野良着の上からそっと撫でる。
施術がはじまった。
権兵衛の指が経穴を探り当て、そこに金の鍼を打ち込んでゆく。
とんとん、と軽く鍼の頭をたたくと即座に抜き取り、また次の経穴へ。
ハナの体を裏返し、督脈に沿って同じ動作を繰り返す。

「妙さん、刺したきゃ刺せばいいが、せめて施術が終わるまで待ってくれ。
なあに、そんなに長くはかからない」

殺気を感じたのか権兵衛が背中をさらしながらいう。
おそろしく無防備な背中だ。いまなら女の妙でも一突きで昼間の恨みを晴らすことができるだろう。

「刺す……ってどういう意味じゃ?」

太兵衛が首をかたむけながら妙にきく。

「いえ……なんでもありません」

現代の時間にして一分足らずで権兵衛の治療は終わった。