僕らの再出発
ちょっと前の話だけど、何とフィル本人が病室に来てくれた。自分は、本当に驚いたというか、感動に近い気持ちだったね。
「フィル、来てくれてありがとう」
心の底からあふれる気持ちを言葉にしたとき、フィルは信じられないニュースを伝えた。
「僕、今年7月ごろに、ジョアキムさんのレーベルからメジャーデビューするんだ」
「へえ、そりゃすごいじゃん。良かったね、フィル」
「ヒューゴと、ジミーをサポートミュージシャンに迎えてね」
それを聞いて、自分はベッドからひっくり返るかと思ったよ。
「…!!?俺、こんな体だよ?もうベース弾くどころか、左手で物もまともに持てないんだぜ?」
「それじゃあ僕、リハビリに付き合うよ。ヒューゴも一緒にね」
自分は、どんな名前も付けられない感情を胸に、フィルをじーっと見つめた。
「おまえ、優しい。本当に、優しい……」
やっと言葉を絞り出し、自由の利く右手を、フィルに差し出した。自分たちは、がっちりと、お互いの手が赤くなるほど握手を交わした。
「おまえがデビューするまでに、俺は必ずこの体を治すよ」
「うんっ!僕もヒューゴも精いっぱい、君の力になるよ!」
自分たちの間には、これ以上の会話は必要なかった。