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雨湯田葉 圭
雨湯田葉 圭
novelistID. 62436
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夢の中

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 岸神は朝起きると、自分がひどく疲れていることに気づいた。激しい運動をした後のように、体中が筋肉痛になっていた。起き上がった岸神は部屋の中を見て唖然とした―タンスから服が投げ捨てられ、本棚の本は床に散乱し、食器類は砕け散っていたのだ。岸神はまず地震を疑った。これだけ物が飛び散っているのだから、相当な揺れに違いない。しかし、外を見ても普段通りの静かな住宅街が存在するばかりであった。岸神は昨日の晩のことを思い出していた。自分をつけていた何者かの仕業だったのではないだろうか。岸神の中で恐怖が爆発した。岸神は携帯を鞄からだすと、110番を押した。
 しばらくして、刑事の柿本とその部下が岸神の部屋にやってきた。岸神は事情を説明した。
「昨晩地震は起こっていないので、話から察するに、何者かが岸神さんの家に侵入したと考えて間違いないでしょう。しかし、犯人がどうやって侵入したのかはまるで見当がつかないですが。」
「ほんとにその通りです。しかも、お金には全く手を付けていない。一体、何を目的に侵入したのか全く分かりません。」
「何か心当たりはないのですか?岸神さんに恨みを持っている人とか。」
岸神の頭に黒岩の顔が思い浮かんだ。
「確信があるわけではないのですが、一人心当たりがあります。あと昨日の夜誰かにつけられているような気がして。」
岸神は、黒岩が怪しいと思っていること、昨晩誰かにつけられていたことを話した。
「実は、千葉さんを殺害した犯人に関する重要な証言を、今朝入手したのです。」
「ほんとですか?」
「昨日の夜、今回の連続殺人の犯人と思われる人物に襲われた人がいたのですが、その人が犯人の顔を見たというのです。しかも、その被害者は、岸神さんのよく知る人物です。」
岸神の中に衝撃が走った。
「その犯人を見たという人は一体誰なんです?」
「田所さんです。」
田所が犯人を見た―岸神は、これで犯人が捕まるかもしれないという興奮に駆られていた。と同時に、田所の安否が気になった。
「田所は大丈夫なのですか?」
「大きな怪我はしていないです。今、警察署で事情聴取を受けています。岸神さんの今回の件も、もしかしたら連続殺人事件と関係があるかもしれません。署までご同行願えますか?」
「もちろんです。田所にも会いたいし。ぜひご一緒させてください。」
これで犯人が見つかるかもしれないという期待に胸を膨らませ、岸神は柿本と警察署へと向かった。
 
警察署につくと、面談室に向かった。面談室では、田所が椅子に座っており、刑事が一人部屋の隅に立っていた。彼らは、岸神の到着を待っているようであった。面談室の周りには3人の警察官が待機していた。岸神は面談室の隅に立っている刑事の顔を見たことがある気がした。しかし、その刑事は顔を伏せていたので、誰だかは思い出せなかった。面談室に入るや否や、岸神は田所に声をかけた。
「大丈夫だったか?」
「ああ、何とか。」
そういった田所の顔はとても悲しそうだった。何か大切なものをなくした子供のようであった。
「それで田所、犯人って誰なんだ?」
岸神のその言葉に、面談室は沈黙に包まれた。その沈黙は、岸神の心臓の鼓動を激しくした。田所は深い深呼吸をすると、悲しげな表情を一層重々しくしながら、意を決して口を開いた。
「俺を襲った犯人は、岸神、お前だ。」
岸神は田所の放った言葉の意味が理解できなかった。俺が犯人?一体こいつは何を言っているのだろうか。
「おい、田所、冗談はよせよ。今はまじめな話をしてるんだ。田所は誰に襲われたんだ?」
「いいか、俺を襲ったのはお前だ。証拠だってある。俺は昨日、お前に包丁で刺されそうになった。間一髪でそれをかわし、振り払ったのだが、そのとき、包丁がお前の右足に刺さった。だからお前は右足に怪我をしてるはずだ。岸神、右足を見せてみろ。」
田所が冗談を言っていうわけではないことはわかった。とすれば、なぜこいつは嘘をついているのだろうか。
「すみませんが、右足を見せていただいてもいいですか?」
横から柿本が口を開いた。
「もちろんですとも。」
岸神としても、早く自分の身の潔白を証明したかった。岸神はかがんでズボンの裾に手を伸ばすと、その裾をゆっくりと引きあげ、右足を見えるようにした。
 そこには、無傷の肌が見えた―はずであった。岸神は自分の見ている光景が信じられなかった。岸神の右足には、刃物でざっくりと切られた後が残っていた。傷は深くはなく、かさぶたができ始めていた。しかしその傷は、田所の証言が正しいことを物語っていた。一体どうして―困惑する岸神の頭に、ある光景が思い出された。それは、田所が振り払った包丁が、自分の右足に突き刺さる光景であった。そして、岸神はすべてを思い出した。その記憶は自分の心の奥底に封印していた記憶だった。その記憶は岸神の記憶であって、岸神のものではなかった。その記憶は、岸神の中に潜む闇が、彼の心に刻み込んだ闇だった。岸神は自分がしてきたことを思い出した。倒れこむ田中の姿、魂が体から抜けでた千葉の死体、自分の正体を知って驚く田所の表情―その他にも、自らがこれまで殺めてきた人々の姿が浮かんできた。そう、犯人は岸神だったのだ。岸神はその事実から目をそらすため、正義という麻薬で心を麻痺させていたのだった。岸神は、自分の中に魔物がいることを知っていた。その魔物が恐ろしかった。だからこそ、岸神は今この瞬間まで、自分の右足の記憶、魔物の記憶を、心の奥底に抑えつけていたのであった。
「あなたが犯人で間違いないですね?」
部屋の隅にいた警官が声を発した。その警官の顔を見たとき、岸神は驚愕した。その警官は岸神がよく知る人物であった。その警官はもうすぐ死ぬはずであった。そう、その警官は黒岩であった。
「岸神さん、騙していて申し訳ありません。実は私、警察だったのです。ここ2,3年、夜中に胸を刺されて殺されるという事件が多発していました。しかし、犯人の足取りはつかめませんでした。しかし、田中の犠牲をきっかけとして捜査は急展開をすることになります。田中は、殺害された日の夜に、岸神さん、あなたと会うことになっていたのです。この事実は、田中の携帯の着信履歴を見て明らかになりました。田中は商売がら、着信内容を録音していました。そして、その着信履歴に、あなたとの会話が録音されていたのです。」
岸神は自分が田中と連絡をとっていたことを思い出した。
「そこで我々警察は、あなたとコンタクトをとることを試みました。田中が殺された翌日、私は患者を装ってあなたに接触しました。あの時のわたしのレントゲン写真は別の人のものです。看護婦の千葉さんにだけ事情を話し、協力してもらったのです。」
岸神は、「どうでしたか」と尋ねた千葉の姿を思い出していた。あれは黒岩の病状を聞いたのではなく、私の様子を聞いていたのか。さらに、黒岩が警察だとすると、彼が岸神を睨むように見ていた理由も納得がいった。
作品名:夢の中 作家名:雨湯田葉 圭