黄泉明りの落し子 狩人と少年
やがて、再び火が焚かれた。
二人は火を囲んで向かい合って座り、食料を食べ、水を飲んだ。
「どこに行っていたんだ?」
ピクシは訊ねた。静かな声で。
「何故あの時、あの娘を、あのケモノを庇った?」
ミタリは、それには答えなかった。俯いて、黙り込んでいた。
「……そうか」
そして、再び沈黙が下りた。
「お前は自分が欲しいものを話してくれたな」
再び口を切ったのも、ピクシであった。
揺らめく焔を眺めながら、静かに続ける。
「お前は……何故、そんなにも多くのものを、欲しがる?」
「……俺にもわからねえや」
ミタリは、静かに答えた。少し嬉しそうだった。
「オレは貧しいからさ……父ちゃんも母ちゃんも、早死にしちまった。学校にも行けなかった。だから使用人やってるんさ。だから……そう。オレを見出してくれただんなに、何が欲しいと聞かれた時、すっごく嬉しかったんだ。そんなこと聞いてくれる人いなかったから。考えたこともなかったからさ」
「……そうか」
それきり、夕食の間、二人が会話することはなかった。
沈黙に満ちた夕食だった。お互いに目を合わせなかった。それは、気まずい食事に見えた。しかしそれは、慣れ親しんだ家族の食卓を思わせた。
夕食を終えると、彼らは寝袋にくるまった。お互いに少し離れて、静かに横たわる。静寂の中、少し冷えた空気の中、消された焚き火の炭が、燻っていた。
「お前に何が欲しいかと聞かれたとき、僕は金が欲しいといったな」
ピクシは話した。独り、つぶやくかのような声で。
「そんなのは嘘だ。そんなの……違うんだ」
「……わかってるよ、だんな」
ミタリは静かに答えていた――静かで、幸せそうな声だった。
「だんなはいい人だもん……オレは知ってるよ」
ピクシは答えなかった。黙り込んだまま、そっと目を閉じようとしていた。
「だんな……オレ、だんなに出会えてよかった」
まどろみの中、そんな声が聞こえた気がした。瞼を閉じる中、暗い夜道を松明がよぎるように、光が現れた気がした。
ピクシはそれら全てを、夢の中の出来事のように思っていた。
長い長い時間が過ぎて――唐突に、ピクシは嫌な予感に襲われた。
「――ミタリっ!」
彼は眼を見開いた。弾かれたように飛び起きた。
朝になっていた。空が白みだしているのがわかった。
ミタリの寝ていた場所を見遣る――ミタリは姿を消していた。寝袋だけが、残されていた。抜け出た後そのままに、乱れていた。
「馬鹿な……」
恐ろしく静かな声で、呟いていた。呆然としていた。
作品名:黄泉明りの落し子 狩人と少年 作家名:炬善(ごぜん)