黄泉明りの落し子 狩人と少年
次の日の朝、彼は姿を消していた。
更に歩いた先で、ブラッツェの鞄を見つけた。
何が起きたかを察するのは、容易であった。抵抗の跡は、全くなかった。
ピクシはその鞄の横に、黒い犬を見出した。
ブラッツェの猟犬、アボロを。
忠実なる友は、主人を悼むかのように、短く吠えた。
そして森の奥深くへと、消えて行った。
ピクシはしばらくの間、茫然と立ち尽くしていた。
やがて、歩きだした。夜を迎えるまで、無表情を通り越した虚無を面に湛えて。
そうして迎えた夜は、孤独だった。彼は、焚き火を炊くことももはやなく、申し訳程度に食事をし、申し訳程度の睡眠のために、寝袋に入った。
彼は一人だった。彼を守るものは何一つなかった。彼を導くものはなかった。静かに、嗚咽を始めた。疲れと睡魔が、彼の体を支配するその時まで、それは続いた。
そうして目覚めた朝に、何かを失うことはなかった。
彼は虚ろだった。生きていたが、死んでいた。
彼はその日も、歩き続けた。
もはや、花や植物を打ち払うこともなかった。進むためだけに、進んでいた。
作品名:黄泉明りの落し子 狩人と少年 作家名:炬善(ごぜん)