幽閉
まばゆいほどの月明かりが、私の足元を照らしてくれたので足を滑らすこともなく屋根づたいに城壁まで降りることができた。放逐されたままだったのであろう城には人の気配がなかった。塔を回り込み、城門まで来ると、人々の気配が感じられた。なんとも懐かしい火の明かりが各家庭の窓に見え隠れして、何気に足を向けた。
門前町へと下る坂を軽やかに降りてゆくと、おもわず足を止めた。
すれ違った女性の顔の表情が。
私を見る表情が。
まるで溶けたような皮膚をして。
生ける屍のような血色の悪さと不格好な歩き方。
あぁなんということだ、疫病は死滅していなかったのか!
私はその女性を見るや否や、城へ戻ろうとした。
するとその女性が上げたなんとも吐き気を催すような声に!
街中の家々からヨタヨタと生ける屍の群れが現れて私の後を追ってきた!
なんということだ!病に侵されたといえ、どうしたことだ、この異様なる欲望の気配は!
それは間違いなく食欲に相違ない下衆な食屍鬼共が。
私を餌にしようというのか!
城門は出さえはできるものの、入城を拒む仕掛けがあると見えて門が開かず
松明を持った食屍鬼共に取り囲まれてしまった。
すると腐敗の一層進んだ食屍鬼が前に現れた。
「我らが偉大なる王よ!我々はあなたの復活を五百年待っていました!」
その言葉に腰を抜かした。
私はこの塔の中に五百年もの間幽閉されていたのか_。
改めて自らの手を見れば殆ど骨と皮ばかり。妃も息子ももはや生きてはいまい。
そして食屍鬼たちが持ち出した鏡を見れば、私の姿はまるで木乃伊そのもの。
なんということだ。
私は既に飢餓のために自らの耳や鼻を食していたのか。
「我らが王よ!この五百年の怨みを晴らしましょうぞ、敵は最早軍備も軽微!
対して我らは不死身の軍団。この機を逃さず侵略の御命令を我らにお与えください!」
この五百年の怨み、はらさでおくべきか。
私の号令で、食屍鬼の軍団が動き出した。
奴らを叩き潰してしまえ!
ひとり残らず殺してしまえ!
血も、肉も、臓物も、骨さえも!
喰って、喰って、喰いまくれ!
いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく
ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ
あい! あい! はすたあ!