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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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「受かったら俺が好きなだけ飲ませてやる。だがな、『残念会』になったら、飲み代は全額お前に負担してもらうからな!」
 ゲラゲラと大きな笑い声が起きる。片桐はわざと慌てふためくフリをしてひとしきり笑いを取っていたが、やがて、かかとを合わせ「気を付け」の姿勢を取った。
「統合情報局第1部の名に恥じぬように、力戦奮闘いたします。行ってまいります!」
 普段の彼からは想像もつかない立派な挨拶に、盛大な拍手が湧きおこった。若い1等空尉は、十度の敬礼(脱帽時の敬礼の仕方)でそれに応えると、「回れ右」をして、颯爽と去っていった。
「あらま。エラく格好いいですねえ」
「未来の『片桐1佐』を期待しましょうか」
 嬉しそうな顔で見送る宮崎と佐伯の横で、美紗も思わず笑みをこぼした。以前、日垣は「片桐の受験指導に苦労した」と語っていたが、もし彼が先ほどの片桐の姿を見たらさぞ驚いただろう、と思った。

 片桐の見送りが終わると、人だかりはすぐに散らばり、帰宅する者が目につき始めた。直轄チームの面々も、週明けから夏季休暇に入る佐伯を残して、それぞれ職場を後にした。

 六時前の空はまだ明るかった。日も暮れないうちに職場を出るのは、美紗が統合情報局に異動して以来、おそらく初めてだ。仕事帰りに買い物を楽しむには十分な時間がある。しかし、久しぶりの機会を楽しもうという気持ちにはなれなかった。
 むせ返るような暑さの中で、街が、空が、色褪せて見える。盆休み前で普段より人通りが少ないせいか。それとも、久々に強烈な西日に照りつけられるからなのか。
 美紗は、普段とは少し違う雰囲気の街を歩きながら、暑い空気やまばらな人通りだけがその理由ではないかもしれない、と思った。

 この街に、あの人が、いない……

 日垣の家族は、東京から飛行機と電車を乗り継いで四時間余りかかる遠い街に暮らしている。時間も交通費もかかるため、市ヶ谷勤務になると、家族に会えるのは数カ月に一度になってしまう。そんなことを、彼は「いつもの店」で話していた。