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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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『……明日、……いつもの……来てくれれば……』

 明日、いつもの店に、来てくれれば――。彼はそう言ったのだろうか。

 美紗は、奇妙な息苦しさを感じて、大きく息を吐いた。自分が何かを言う立場にないことは分かっている。それでも、理不尽なものを感じずにはいられなかった。

 あんな人が、いつものお店に行くの?
 あんな人が、いつもの席に座るの?
 あんな人が、日垣さんと一緒に――

 八嶋香織への憤りは、未来の航空幕僚長と目される日垣の評判に傷を付けた彼女の行為に対する嫌悪感から生じているのか。それとも、彼女のように想う相手に心の内を堂々と晒す度胸のない自分に向けられた腹立たしさから転じたものなのか。それすら分からないことが、ますます、苛立たしい……。

 電話の呼び出し音が、暗く淀んだ美紗の思考をかき消した。「直轄ジマ」の若手三人の机の境目に置いてある内線電話を取るのは、普段は美紗の仕事だったが、この時は雑念に邪魔されて、一歩遅れた。
 指揮幕僚課程の二次試験を控えて気合の入る1等空尉が、素早く受話器を取り上げた。
「統合情報局第1部直轄チーム、片桐1尉です」
 爽やかに応答した彼は、
「日垣1佐ですか?」
 と言って、机の上に散乱した回覧物の中から、統合情報局幹部の行動予定表を引っ張りだした。
「あいにく、今日から休暇に入っていまして、戻るのは来週の金曜日です」
 受話器の向こうで、「なにい! 要職を放り出して長期休暇とは……」とふざけ半分に叫んでいる声が漏れ聞こえた。それが窓際に座る直轄班長の席にまで聞こえたのか、松永が眉をひそめて片桐のほうを見た。大声の相手は一方的に喋っているらしく、片桐はほとんど言葉を発することなく、数分後に「了解しました」と言って電話を切った。