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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 美紗が膝立ちになって机の影から顔だけを出すと、高峰が腕組みをして天井を見上げているのが目に入った。
「私が余計なことを言ったせいですね。吉谷女史には悪いことをしてしまった」
「何かあったのか」
「先月、フランス大使館のレセプションがありましたでしょう? 独立記念日の祝賀行事の。その話を吉谷女史が総務課長と話しているところに、たまたま居合わせまして……」
 高峰は、一か月半ほども前になる出来事を日垣にかいつまんで語った。文書班長の吉谷は、フランス大使館に勤める古い友人から祝賀行事に招待され、それに出席したい旨を、上司である総務課長に話していた。第1部でも、外国人と接触する際には事前に上司の了解を取ることが望ましい、という不文律があるためだった。
 総務課長は快諾したが、吉谷は浮かない顔をしていた。子供のいる彼女は、普段は、部下を残して早めに帰宅しなければならない身だ。「残業はできないが酒の席には参加できるのか」と陰口を叩く声もあるだろう。情報局一と言われる才女は、気心知れた人の良い上司に、そのようなことを遠慮がちにこぼしていた。

「うちで、あの吉谷女史にそういうことを言う輩がいますかね」
 佐伯が身を伸ばして、第1部の部屋を見渡した。
「できる人間をやっかむ奴は、どこにでもいるからなあ。それに彼女は、8部で専門官になった時から『女性初』という肩書をずっと背負ってるから、これまでも、つまらん人間につまらんこと言われることもあったんじゃないかねえ」
 情報局勤務の長い高峰の言葉を聞きながら、美紗は床に膝をついたまま、総務課のほうを見やった。いつの間にか自席に戻っていた吉谷は、文書班先任の3等空佐と顔を寄せ合って、書類ファイルをめくりながら何か話していた。すでに、異動を見越して申し送りを始めているのかもしれない。
 再び日垣のほうに向いた高峰は、「それで、なんだか彼女が気の毒になりましてね」と言って、申し訳なさそうにため息をついた。
「1部長のカミさん代理という名目で行くことにしたらどうか、などと二人に言ってしまったんですよ。『仕事』の体裁を取れば彼女は出やすいでしょうし、日垣1佐も……」
「因縁の相手と出くわした時に吉谷女史を隠れ蓑に使えて一石二鳥、というわけか」
「すみません。軽々しいことを……」