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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 興奮気味の小坂に、宮崎は、「さあ……」とだけ返し、パソコンのキーボードを叩き始めた。代わりに、佐伯がひょろりと上半身を乗り出した。
「お隣の人のやっていることをむやみに聞いてはいけませんと、着任研修で習いませんでしたか?」
 またもや幼稚園の先生を思わせる滑稽な口ぶりに、高峰と宮崎が失笑する。しかし小坂は、神妙な顔で「すいません」と頭を下げた。情報業務に携わる部署では、「一人一担当」が基本だ。たとえ同じ「シマ」に属する者同士でも、上官以外の相手に己の業務内容を不用意に教えることはしない。ましてや、他人の仕事にむやみに首を突っ込むような言動は、いらぬ誤解を避ける上でも、慎むことが求められていた。

「宮崎さんのネットワークは、広い上に、極秘のネタが多いからなあ」
 佐伯の話を継いだ高峰は、のんきそうに口ひげを撫でた。
「我々は、『見ざる聞かざる』で待っているほうが、いろいろと身のためさ」
「そうですか……。はあ、なんか、恐ろしいですねえ」
「別に恐ろしくはないよ。何も知らなければ、どこかでいらんことをぽろっと喋って捕まることもないわけだし?」
「捕まる? 何か、そんな前例あるんですか?」
 眉を八の字にして情けない声を出す小坂の横で、美紗はゴクリと唾を飲んだ。直轄チームの中で最も「極秘の立場」にあるのは、当の高峰だ。彼はいまだに、公にできない「対テロ連絡準備室」に籍を置き、第1部長の日垣と共に秘匿性の高い仕事に関わっている。情報局内でそのことを知るのは、前任の比留川2等海佐から申し送りを受けたであろう直轄班長の松永、そして、本来は知る立場になかったはずの鈴置美紗だけだ。

「統合情報局では、『主犯格』の人間は今のところは出ていないな。ただ、警察沙汰になった事案の関係者としてうちの人間が内々に処分されたって噂は、いくつか聞くよ」
高峰の話に、小坂の顔色はますます悪くなった。
「処分……って、どういう?」
「ある日突然の依願退職、急な長期療養、それから、妙な時期に畑違いの部署に異動、ってとこだな。そういうのがあると、『あいつ保全問題でも起こしたんかな』って噂が立つ」
「噂の真偽は、……やっぱり追求しないのが、暗黙のルールですか?」
「まあ、そうだねえ」
高峰がニヤリと笑みを浮かべると、小坂は「やっぱり恐ろし……」と呟いて、すっかり小さくなった。それにつられるように、美紗も身を固くした。もみ消された保全問題。あれから、もうすぐ一年が経つ――。