小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

INDEX|27ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 


 美紗は、小坂から頼まれていたブリーフィング用資料のチェック作業を中断し、少し腰を浮かせて背後を見やった。八嶋が所属する事業企画課では、大半の人間が出勤しているようだったが、当の彼女の姿は見当たらなかった。美紗は、少し迷って席を立ち、総務課の所まで歩いて行った。
 総務課の近くには、第1部に複数台置いてあるコーヒーメーカーの一つがある。美紗はそこで、備え付けの使い捨てコップをひとつ取り、コーヒーを注いだ。エアコンのよく効いた部屋に、熱いコーヒーの湯気が立ち上る。それを眺め、そして、ためらいがちに、八嶋の席がある方向を見た。オフィスのほぼ中央に位置する総務課からは、「直轄ジマ」とは正反対の場所にある事業企画課の様子がよく見えた。
 八嶋香織の席は小ぎれいに片付いていた。パソコンの液晶モニターには、お手製らしいカバーまでかけてある。夏季休暇中なのだろう、と美紗は思った。理由もなく、ほっとした。

 美紗がコーヒーを持って自席に戻ると、指揮幕僚課程の選抜試験のため不在にしている片桐1等空尉の席に、第1部長の日垣が座っていた。
 日垣は、「さっき顔を出した会議で、某大国絡みの話が出ていたから」と言って、政情不安が懸念される某大国の最新情勢と統合情報局側の今後の対応に関する話を始めた。美紗は、パソコンのモニターに隠れるように縮こまりながら、留意事項をメモした。真正面に座る日垣貴仁と目を合わせるのは、どうにも落ち着かない。
「……今の段階では、情勢が一気に悪化する方向にはいかないだろうという見解だが、4部ではすでに休暇中の幹部を順次自宅待機させているそうだ。現地で何もなくても、関係省庁からの情報要求はそれなりに入ってくるだろうしな。宮崎さん、そういう話、内局あたりから聞こえてる?」
 日垣に問われた宮崎は、銀縁眼鏡を光らせて表情を引き締めた。
「まだ不確かですが、うちから首相官邸に直接報告に行く可能性も無きにしも非ず、のようですね」
 全く身近でない組織名に、小坂が素っ頓狂な声を出した。
「ホントに? 宮崎さん、さっきの電話、そんな話だったんですか?」
「まだ『感触』のレベルだけど」
「政府は何かアクション起こすつもりなんですかね。そんな動き、出てるんですか?」