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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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「具合はどうですか」という件名で、日垣の私用携帯からメールが入っていた。

『夏バテだと聞きました。お大事に』

 短い文と共に写真が添付されていた。いつもの店で美紗が飲んでいる、いつものマティーニが写っていた。透明な液体を湛えたカクテルグラスの後ろには、バーテンダーのものらしい黒い服の一部と、ずらりと並ぶ瓶類が見える。カウンター席で撮ったのだろう。ということは、彼はおそらく今、一人であの店に来ている。
 美紗は、携帯端末を左手に握りしめたまま、大きく深呼吸をした。息を吸うと胸が痛くなるほど、心臓が激しく波打っていた。返信しようと液晶画面に触れた人差し指が、震える。

『週明けには出られます。
 ご迷惑をおかけしてすみません』

 返事はほどなくして帰ってきた。

『無理せず、しっかり休んでください。
 初めてマティーニを飲みました。
 ずいぶん強いお酒が好きなんですね』

 暗い部屋の中で、美紗は赤面した。酒豪ぶりに驚いた、と言われたような気がして、慌てて返信した。

『どんなカクテルがあるのか、
 あまりよく知らないので、
 いつも同じものを頼んでしまいます』

 送信ボタンを押したあとで、少し言い訳がましかったかもしれないと、後悔した。美紗がわずかに知るメジャーなカクテルの中にも、アルコール度数の低いものは、いくつかある。カンパリ・オレンジ、カルーア・ミルク、ソルティ・ドッグ、ファジー・ネーブル……。皆、十度あるかないかという程度だ。マティーニの四二度に比べれば、まるでジュースのように飲みやすい。