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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 初めてあの人にアルコールをすすめられた時、もう少し「控えめ」なものを選んでいればよかった……。美紗は、一年ほど前のことを思い出し、今更ながら気恥ずかしくなった。
 あの時は、とてもそのような小細工を思いつく余裕などなかった。情報畑に長年身を置く上官の「裏の顔」を知り、ただひたすら恐ろしかった。彼の偽りに翻弄され、その冷徹さに驚愕し、突然向けられた誠実な眼差しに困惑するばかりだった。
 その彼と、同じ店で逢瀬を重ねることになろうとは、思ってもみなかった。抑え難い彼への想いに心乱されることになろうとは、予想だにしていなかった。

 また胸の内に痛みのようなものを感じ始めた時、再び日垣からのメッセージが来た。

『分からない時は、マスターに
 遠慮なく聞いてみるといいですよ。
 彼は、話好きなほうなので、
 きっと喜びます』

 美紗は、しばらく考え、ゆっくりと文字を打った。

『少し予習してからでないと、
 マスターに怒られそうです』

『お酒関連の質問なら、マスターは
 何でも大歓迎だと思います。
 私もカクテルのことはさっぱりなので、
 一緒にカクテル講義を聞きたいですね』

 美紗は、携帯端末を胸に抱きしめ、ベッドの上で背を丸めた。もう一度、送られてきた文章を読んだ。直に会っているわけではないのに、あの落ち着きのある低い声で話しかけられたような気がして、耳元が温かくなるのを感じた。優しい笑顔がすぐそばにあるような気がして、息が止まりそうだった。