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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 美紗は、枕元に放り出すように置いてあった携帯端末に、物憂げに手を伸ばした。登録されている連絡先一覧の中から、幾人かの友人の名前を見つけては、それをぼんやりと眺めた。十代を共に過ごした彼女らは、夢を叶え、あるいは、夢を叶えるために、それぞれのステージへと旅立って行った。海外に生活の場を移した者、若くして結婚した者もいる。互いに、環境が変わり、住む場所が変われば、友情は徐々に思い出へと変わっていく。就職して四年目になると、頻繁に連絡を取り合う相手は、もう数人ほどしかいなかった。
 そのうちの一人である高校時代からの旧友に、美紗はメッセージを書きかけて、止めた。実家からそう遠くないところに住むその友人は、美紗が地元を離れて大学に進学した後も、就職して生活基盤が完全に東京に移ってからも、以前と変わらぬ友情を示してくれた。時には、「都会で遊びたい」などと言いながら、会いに来てくれた。今思えば、気が利くタイプの彼女は、美紗が実家を疎んでいることを察し、東京まで足を運んでくれていたのかもしれない。
 その親友とも、業務過多な統合情報局に異動してからは、なかなか会うのが難しくなり、いつしか、携帯端末を通してのやり取りばかりになってしまった。それでも、気心知れた間柄であることに、変わりはない。
 彼女に話すべきか、迷い、結局言えないままになっていることが、三つだけある。母親が自分の誕生を待ち望んでいなかったと知ったこと、その母親が知らぬ間に家を出ていたこと、そして、日垣貴仁のこと。
 ひとつ目はあまりにも悲しくて、二つ目はあまりにも情けなくて、口にしたくなかった。三つめは、今となってはもう、打ち明けられない。日垣が独身だったなら、恋愛話の好きな旧友に、いくらでも相談しただろう。しかし、二十歳以上も年の離れた既婚の上司に、仕事も手につかないほど焦がれているとは、とても言えない……。
 美紗は、携帯端末を枕元に落とすように置いた。何も食べる気になれず、コーヒーだけを飲んで、狭い部屋の片付けを少しすると、急に身体がだるくなった。テレビを見るのもおっくうで、またベッドに突っ伏すように横になる。こんな無意味な休日を過ごすのは、就職して以来、初めてかもしれない。

 本当に、どうかしてる……

 いつの間にか、再び眠っていた。何かが低く唸っているような物音を感じて、目が覚めた。携帯端末のバイブレーターが、耳障りな音を立てていた。外はすっかり暗くなり、カーテンを開けたままの窓から、月明かりが差し込んでいた。美紗は驚いて身を起こした。闇の中で眩しく光る携帯端末の画面を見て、あ、と声をあげた。