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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 あの人の価値観を試すような真似をするのは、怖い
 試して、拒絶されて、
 それまでの日々をあっさり思い出にできるほど
 私はたぶん、大人じゃない

 唇から三度めのため息が漏れる。


「鈴置さん、夏バテえ?」
 底抜けに明るい声と共に、小坂がいたずらっぽい笑顔を寄せてきた。
「ずいぶんお疲れじゃない? 休み、まだ取ってなかったんだよね? 来週あたり、バーンと休んでリフレッシュしてきたら? 実家でぼーっとするだけで、だいぶ違うよ」
「ダメだぞっ! 来週は俺が休むんだからっ!」
 間髪入れず、窓際に座る松永が、立ち上がらんばかりの大声で割り込んで来た。彼の斜め前に机を構える宮崎は、わずかに後ろにのけぞりながら、銀縁眼鏡を右手でかけ直した。
「松永2佐、先週は鈴置さんに『一週間ダーっと休んでいい』とか言ってませんでした?」
「事前調整なしでそんなに休まれてたまるか!」
 普段にもまして静かな部屋に松永の声が響いたが、宮崎と小坂は全く動じず、「ケチな上司だなあ」などと茶化して笑い合った。
「来週は、まだ片桐がCS(空自の指揮幕僚課程)の試験でいないし、週の半ばには高峰3佐が出張の予定だから、うちのシマ、人があまりいないんだよ。盆明けになると、大抵、上の連中は用もないのに何か報告しろと言ってきて、くだらん仕事も増えるし」
「人手が足りなくなったら、休暇中の直轄班長を呼び出します」
「ふざけんな!」
 松永は喚きながら机を叩いた。その本気とも冗談ともつかないリアクションに、部下二人はますます派手な笑い声を上げる。
「全く。せっかく片桐がいないのに、ちっとも静かにならんな、うちの『シマ』はっ」
「賑やかなのが取り柄ですからね」
「静かになっちゃあ、落ち着かんでしょう、ねえ、鈴置さん」
 妙なところで小坂に同意を求められた美紗は、相槌に困って目をしばたたかせた。