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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 淀みなく語るバーテンダーの声は、いつの間にか、不思議な温かみに溢れていた。その口調に、美紗は覚えがあった。確信に満ちていながら、控えめで落ち着いた話し方が、少しだけ、あの人に似ている……。
「貴女は、そのお方の『一番の存在』になることを望んでおられるのですか?」
 美紗は、透き通った青いカクテルに目を落とした。そして、「いいえ」と答えた。一番には、決してなり得ない。それは、八嶋香織も同じだろう。八嶋のように、決して手に入らないものを無理矢理に得ようともがくより、あの人の優しい笑顔を遠くから見ているだけのほうがいい。
「貴女のお相手が、疑う余地なく信頼に値するお人だとお思いなら、その方の価値観に、ご自身を委ねてみてはいかがですか」
「委ねるって、でも、どうやって……」
「貴女の意思を言葉にすることに抵抗があるのでしたら、いつもの曜日、いつもの時間帯に、こちらにお越しになればいいのです。ただそれだけで、察しの良い方なら、お気付きになるでしょう」
 カクテルグラスの中で、青と紺の合間のような色が、さざめくように光る。
「限りある時間を、後悔のないように、お過ごしになってください」

 限りある、時間

 あまりにも明白でありながら、実感し難いその事実に、美紗は息を飲んだ。
「知って、いらしたんですか。私と、日垣さ……」
 新人と紹介されたバーテンダーは、穏やかな笑顔を消し、美紗の言葉を遮った。
「貴女は、何にも怯えることなく、お相手の方を、これまで通りに、大事になさればいい。年上のその方が、貴女を守り、きっと好ましい方向へ導いてくれますよ。それに、貴女自身、何を望まなければ、最後までお二人の時間を大切にできるのか、もうすでに、ご存じなのでしょう?」
 無表情な藍色の瞳が、じっと美紗を、見据えていた。


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