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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅶ

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 さほど背の高くないマスターの横に立つバーテンダーは、相対的にかなり上背があるように見えた。黒々とした髪を、マスター同様にオールバックにしている。しかし、目鼻立ちが地味なせいか、どこにでもいるサラリーマンのような印象を受ける。
「カクテル作りの腕は保証します。ただ、彼はまだ、お客様とのやり取りに少々不慣れでございましてね。お嫌でなければ、彼の修行にお付き合い願えませんか? お代は店が持ちますので」
 マスターの言葉に、美紗は当惑の表情を浮かべた。この店に頻繁に通うようになって一年近くになるが、店の人たちと話をするのは、いつも日垣だった。一人で訪れた時も、声をかけてくれるマスターとわずかに言葉を交わす程度だ。カウンターを挟んでのトークに不慣れなのはこちらのほうなのに、と思った。
 しかし、マスターは、新人のバーテンダーに微かに目くばせをすると、店の入り口に顔をのぞかせた新しい客のところへと行ってしまった。
 渋みのあるマスターに比べるとこれといった特徴もない印象のバーテンダーは、優雅な動作で、「よろしくお願いします」と一礼した。洗練された雰囲気はあるものの、顔も声も表情に乏しく、そっけない感じすらする。
「マティーニを、よくお飲みになるんだそうですね」
「え? あ、はい」
「では、ベースはジンがよろしいですか?」
「いえ、何でも……。あの、さっき来るとき、暑かったので、えっと、すっきりした味のものが、いいです」
「柑橘系にいたしましょうか。レモンの風味では……」
「あ、それで、お願いします」
 接客に不慣れな新人という割には特に緊張している風でもないバーテンダーに、美紗のほうが急かされるように答えていく。
「アルコールは、少し強くても大丈夫ですね」
「……」
 美紗は一瞬言い淀み、そして恥ずかしそうに頷いた。カクテルの中でもアルコール度数の高い部類に入るマティーニを、店に来るたびに飲んでいるのだから、「酒豪」と解釈されても当然かもしれない。
 バーテンダーは、身を小さくする美紗に背を向けると、まだ紫色が残る夕空を背にずらりと並んだ瓶の中から、迷うことなく二つを選んだ。正面に向きなおると、今度は何かを切り、それを絞っているらしい仕草をする。