赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 26話から30話
「もうすこし、柔らかい印象にしなければいけませんなぁ。
眉毛はまず、赤の粉で引きます。
黒だけで引いてしまうと、どうしてもきつい印象になります。
武者のように、りりしくなってしまいます。
赤でまず描いてから、その上に黒をのせ、淡く調節していきます」
小春のあたたかい指先が、清子の眉を柔らかく馴染ませていく。
半玉としてデビューして、1年が過ぎると、アイラインを入れたり、
目元の赤も濃いめに付けたり、その人の独自のアレンジが、
許されるようになる。
しかし出たての半玉に、アイラインは許させれない。
目尻も、頬紅も、ピンクのお粉でほんのり色づけした程度までが許容の範囲。
上まつ毛にマスカラを付けることは許可される。
ただし。これはお化粧というよりも、拭っても付いてしまう白粉を隠すため、
という要素が強い。
お化粧が済むと、着付けに入る。まず、かつらを装着する。
京都の舞妓は、自毛を使って日本髪を結うが、半玉にそうした決まりはない。
多くの半玉がかつらを用いる。
紫のネットをかぶり、この中に自分の髪をおさめてから、
鬘(かつら)をかぶる。
オーダーメイドでつくられているが、ちゃんと装着できるまでは、ある程度の
熟練を必要とする。
慣れるまで、お姐さんにかぶせてもらうのが一般的だ。
かんざしは、3つ。
桃割れの後ろと、両わきにつける。
右に大きめのものをつける。ひときわ目立つように配置する。
デビューしたての頃は目立つよう、キラキラ輝く垂れたかんざし類が多くなる。
季節を表した花がおおい。
1月は正月を表す飾りで、1年の実りを願っての稲穂。
2月は梅。3月は菜の花。と変化していく。
月ごとの変化に加え、芸妓の年齢があがるとより渋いものへ変わっていく。
ぶらぶらの飾りがたくさんついたかんざしは、半玉たちの専用品。
たくさんついているほど、若い芸妓ということになる。
子供らしさやかわいらしさを、ことさら、強調しているからだ。
お姉さんになるほど、ぶらぶら類は少なくなる。
かんざしもキャリアとともに、シンプルなデザインに変わっていく。
かつらのあとは、着物の着付け。
出だしの半玉は、お姉さん芸妓に着物を着せてもらう。
赤い襟のついた長襦袢の上半分を、すこし大きめに抜く。
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 26話から30話 作家名:落合順平