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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 26話から30話

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 『うふふ。ウチはお粉の順番など、間違えません。
 お粉の前に、ピンクのお粉をはたいておかないと、後で困ります。
 あれ・・・・そういえば、お姐さんたちが、お化粧の順序を簡単に、
 間違えるはずなどありません。
 そうか。ウチに覚えさせるために、わざと間違えた振りをしましたね。
 見て覚えなさい。と言う前に、注意をひくための小細工をする。
 確かにこれなら絶対に、順序を間違えたりしないもの」

 小春は、部屋の片隅で静かに正座したまま、清子をみつめている。
特に動作を急がせる様子もない。
手を膝に置いて座ったまま、清子が、何か聞いてくるのを待ち続けている。

 小春の正座に、儚(はかな)さが漂っている。
愛しい人の後を追い、右も左の分からない東山温泉へやって来てから、
10数年という時が経過しようとしている。
三十路の半ばにさしかかった小春に、少しばかり憂いが身についてきた。

 憂いとは、思うようにならなくて、つらいことを言う。
くるしい。やりきれない、なども、憂いをあらわす言葉のひとつ。
女が憂いを身に着けるとき。もうひとまわり美しくなる。
こころの苦しみは、もうひとまわり、女をおおきく美しくする。

 そんな小春が、静かな目をしたまま、清子を愛おしそうに見つめている。
おぼつかない手つきで、お粉の刷毛を操っている清子の様子が、
何故か、可愛く見えて仕方がない。


(30)へ、つづく