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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 26話から30話

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 『おい。今日から独りで全部するのかよ。・・・・大丈夫か、お前』

 不安そうな目で。たまが清子をみあげる。
だが清子が、チロリと赤い舌を出す。
『そんなこともあろうかと思い、毎日、克明にメモなどをとっておきました。
へへん。これさえあれば鬼に金棒です』自信たっぷりに、清子が笑う。

 『そいつは何よりの心がけ。清子にしては上出来だ。
 だがよう。いちいちメモを見ながら化粧したり、着物を着付けたり
 するのかよ。
 普通は目で見て、頭で覚えるものだろう。
 たった今、小春姐さんから、そんな風に言われたばかりだろう。
 いいのかよ。そんな中途半端なことで』
 
 『それもそうです。
 カンニングしながらでは、たしかに、まずいものがありますねぇ』

 『なんだよ。順番も、段取りもまだ、まったく覚えていないのかよ!』

 『書くだけで精一杯だったもの。中身を覚えるのはこれからよ』

 『やっぱりな。清子のすることだ。おおかた、そんなことだろうと思ったぜ。
 物覚えが悪い上に、根っから呑気だからなぁ。
 お前ってやつは・・・・』

 風呂上がりの清子が、お腰と肌襦袢だけの姿になる。
肌襦袢には、お決まりの、赤い縁取り。
あしもとの足袋は、こはぜが5枚ついた日本舞踊用のものを履いている。

 ひとりで、初めてのお化粧に取りかかる。
まず、基礎となる下地からはじめる。
お化粧でいう、ファンデーションを塗る前のベースメイクのようなものだ。
芸妓の場合、鬢(びん)付け油を使う。
椿の実からとれるツバキ油を塗っていく。

 食用油に比べ、飽和度が低いので髪につけても、べたつかない。
オイル状のものではなく、固形のままのものだ。
それを指で、適量ちぎり取る。
手のひらでこすり合わせるようにして、体温で溶かしていく。
柔らかくなるまでなじませる。
柔らかくなってきたら顔、首、胸元、背中と順に塗っていく。

 鬢(びん)付け油の塗り方次第で、おしろいのノリが決まってくる。
しかし。やってみると、これがたいへん難しい。
半玉たちは、ムラなく全体に鬢付け油が塗れるよう、来る日も来る日も、
練習を重ねる。

 下地の準備ができたあと。いよいよ、お粉(おしろい)を使う。
額、頬と、柔らかい刷毛で塗っていく
白く均一に塗っていくことで、がらりと顔の印象が変わってくる。