レイドリフト。ドラゴンメイド 第28話 達美の告白
ドラゴンメイドはPP社の持つ電子機器に自由にアクセスする権限を持つ。
「しつこいぞ! お前達! 」
BROKK 60の電動モーターをうならせ、前進させる。
力強い油圧で振り上げるアーム。その先にはコンクリートを砕く2本爪。
その姿は、脅しにはもってこいだ。
騒ぎ立てる怪我人たちは、黙りこくってしまう。
その時、ドアが開いた。
飛び込んだのはさながら、パワードスーツの多段式ロケットだ。
一直線に並んだ屈強なヒーローが、すべてをなぎ倒す意思を持て走る。
500キロのロボットは、ちょうどドアの前をふさがせた。
突進の先頭は、鉄製の重い盾。
その勢いにロボットは轟音と共に突き倒された。
それでも、突進の勢いを止めることはできた。
『誰だ! こんなもの置いたのは! 』
BROKKは横倒しになったが、アームについたカメラは動かせる。
何と、先頭の盾から見えたのは千田課長の髭面だ。
曲がった盾を捨て置く両手、そして覗く足首は金属製。
彼は自衛隊の元戦車乗りで、多くの犯罪異能力者と戦ってきた。
だが、最後の戦いで両手両足を失っている。
それを補ったのだ。
(これで、ペチャンコにされる心配はないね。このままとぼけてよぅっと)
そう考え、何食わぬ顔で車を降りようとした。
その時、病室の映像にある人の顔が見えた。
「・・・・・・工場長? 」
視線の先にいるのは、呆然とする、ベッドにもぐりこんでいる者。
何でこんなところに。
その人は、ドラゴンメイドにとって要塞にいるはずの無い人だ。
「どうしたの? 」
ワイバーンがもどって聴いてきた。
だがドラゴンメイドは答えることもなく、サフラをぞんざいな手つきで彼に任せ、病室のライブ映像に食い入った。
プレシャスウォーリアー・プロジェクト。
このまま戦乱が続けば失われる生命や財産を、その脅威がはっきりした時点で地球へ逃がす計画。
ドラゴンメイド、いや、プロジェクトにかかわったすべての人にとって、工場長は計画の恩人だった。
そんな思いが唸りを上げ、勢いづいた手はライブ映像に掴み掛る。
映像をすり抜けた両手は、後ろの壁に突き刺さる。
力任せに手を握ると、壁にメキメキ音を立てて食い込んだ。
「あんたっ! あんた誰よ!! 」
質問は、思わずでた。
それに応えて、BROKKのアームについたカメラが布団をかぶった人に向けられる
その人が、かぶっていた布団をとった。
ドラゴンメイドには、とったというより、人が霧のように薄くなり、布団がすり抜けたように見えた。
『わ、私は……』
その女性が口を開く。
『カリス・カラー・・・・・・です』
そう、この人がいなければ、王国の遺臣も、それに賛同する人も集まらなかった。
『カラー自動車工業の社長。兼、マトリクス騎士団団長……です』
だが、その声は肩書に反して、全く威厳も強さも感じさせない。
カリスは、青い顔だった。
肉付が悪いわけではない。
白いものが混じっているが、まだまだ豊かな金髪がある。
ドラゴンメイドには、それが何より異常だった。
工場長は体の震えを止められないようだ。
自分が知る姿より、縮んだようにも見える。
「ちょっと! ちょっと待ってて! 」
そう言って、ドラゴンメイドは外へ飛び出した。
目指すのは、赤と青のドラゴンマニキュア。
まずは赤。
空飛ぶ牢獄を見張っていたミカエルの元へ。
「プロデューサー! 顔を見せて! 」
返事を聞くこともなく、ヘルメットのクイックリリースボタンを押す。
「何よ、突然」
赤いヘルメットの様々なロックが外れ、現れたのは黒い肌できりりとした顔つきの美女。
後頭部に、本来なら銀色に輝くウェーブする長髪をまとめている。
達美は思い出し、確認する。
ミカエルはカリスと同い年のはずだ。
その肌は張りも艶もあり、若々しい。
張艶は肌の色とは関係ないだろう。
「スキーマさん! 顔を見せて! 」
次に手をのばすのは、青いヘルメット。
敵の目や衝撃から隠されたアーマーのふちのくぼみに、そのボタンはある。
『いいけど、何に使うの? 』
中から現れた顔は、さらに一枚仮面をかぶっていた。
目だけが空いた白い仮面。
そのせいで声がくぐもっている。
仮面の頬には、緑の唐草模様が描かれている。
「身元確認に必要なんです! 」
ドラゴンメイドは困惑するスキーマの後頭部を真剣に見詰めた。
スキンヘッド。
毛が一本もないにもかかわらず、白い肌に日焼けの類は見られない。
スキーマは36歳だが、その肌に衰えは兆候さえ見えなかった。
イーグルロード、久 広美は25歳。
彼女は対象にならない。
カリス、ミカエル、スキーマの肌を見比べて、ドラゴンメイドは結論付けた。
見た目の肌年齢は、同世代であっても同じとは限らない。
しかし、本当にこれが役に立ったのか?
焦りからきた行動を後悔しながら、モニターに戻った。
「工場長、お待たせしました。確かにあなたは、カリス・カラーさんですね? 」、
カリスが、頷いた。
ドラゴンメイドの体から力が失せた。
両腕の追加パワーアシスト機構、そしてマスクとゴーグルが解除される。
床にへたり込んだ時、彼女はすっかり真脇 達美に戻っていた。
「どうして……。あなたはみんなと一緒に地球へ行くんじゃなかったんですか!? 」
カリスは、辛そうに目を伏せた。
『最初はそのつもり・・・・・・でした』
その一言だけで、達美の心は不安でいっぱいになる。
達美の知るカリスは、もっとパワフルで狡猾で、どんな時でも最大限の利益を上げる、そんなカリスマ性のある人のはずだ。
自分に敬語など、使ったことがなかった。
『ですが、46年の人生を振り返った時――』
「いけません、女性が年齢の話なんて」
そう、達美は言葉を遮った。
少しでも彼女が過去の自分を思い出せば、威厳を取り戻すと信じながら。
だが、その信頼は裏切られた。
『この星には、宇宙戦争しかないと悟ったのです。
科学者たちの陰謀を知った時、それは確信になりました。
この後も、確実に宇宙戦争で人が死ぬ。ならば、彼らを見捨てないことが、人の道ではないかと……』
最後は、言葉が途切れた。
途切れたカリスの声に反比例したように、達美は叫んだ。
「その彼らも連れて行けばいいじゃないですか!
そのくらいの輸送車はあります!
それに、あんなにうれしそうに、車のメンテしてたじゃないですか!
地球に言ったら、昔みたいにレースをやりたいって、言ったじゃないですか! 」
帰ってくるのは、おびえ、あわてたような声だけ。
『今までしてきた整備は、父母に言われた事をやっただけ。
作品名:レイドリフト。ドラゴンメイド 第28話 達美の告白 作家名:リューガ