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レイドリフト。ドラゴンメイド 第28話 達美の告白

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 大きく張り出した胸には影さえ入っている。

 兜はフクロウの顔を。マントは翼を模している。

 彼女の体である大量のランナフォンが、車内にいる人々の足元を走り回った。

 それだけで車内の視線を下に引き寄せた。




 銀色のパイロット用パワードスーツ、ドラゴンマニキュア4Pを着るのは、トランペットの久 広美。

 編美の養母だ。

 そのパワードスーツが、光とともに変形していく。

 現れたのは、オウルロードと同じ作りの銀の鎧。

 ただし、その兜は鷲を模している。

 そして最大の違いは、実態があるという事。

 彼女の能力は、本物の空を飛ぶことで発揮される。

 イーグルロード。

 宇宙空間まで飛行可能な極超音速戦闘と、射程400キロのレーザー砲による狙撃を得意とする異能力者だ。

 


 イーグルロードが変形する間に近づいたのは、ドラム、スキーマだ。

 青いドラゴンマニキュア4P。

 それに覆われていない左腕は、機械でできている。

 表面はシミやヒビ一つない白。それに巻き付く新鮮なつる草をディフォルメしたような緑の唐草模様。

 その義手が、低いモーター音を上げて2本に展開する。

 

 出口にいちばん近かったのは、なぐり合うシエロとウルジン。

 スキーマは義手を、自分に背中を向けたシエロの両脇の下へ差し込んだ。

 左手は人一人の体重をしっかり支える。

 すかさず両足をスリットでのばし、シエロを空へ運び上げる。

「逃がすか! 」

 そう言ってつかんで離さないウルジン。

 イーグルロードが突き倒した。




 入れ替わりに突っ込んだのは、プロデュ-サーにしてキーボードでもあるミカエル・マーティン。

 ドラゴンマニキュア4Pは、パイロットスーツを兼ねるためかなりタイトだ。

 赤いスーツはそれでも装着者の力をアシストする。

 突き飛ばされ、席の間に倒れたウルジンを、足をもって引きずりだした。

 ウルジンは素早く上半身を起こし、殴りかかる。

 だがそのパンチを、イーグルロードの掌は目にもとまらぬ速さですべて弾き返した。

 

 無駄な拳は、横からきたオレンジのドラゴンマニキュア4Pによって、完全に握り締められ、止められた。

 松瀬 信吾マネージャーだ。

 2人がかりで持ち上げ、引きずり出す。




 ウルジンを待つのは、宙に浮く虹色のリング。

 2号=狛菱 武産が用意した、空飛ぶ牢屋。

 この中へ放り込まれれば、囚人は宙に浮く。

 手足を動かしたところで、その場でぐるぐる回るだけだ。




 車の奥ではワシリーが暴徒と化していた。

「やめてぇ! 止めてぇ! 」

 必死で懇願するカーリタースを蹴り飛ばす。

「うるせえ! 全部お前たち科学者のせいだ! お前は敵だ! 」

 車の前にも後ろにも逃げられないように、道を塞いで。

「敵だから、倒さなきゃ。勝利のために倒さなきゃ……」

 その目には何の希望も感じられない。

 今や、勝利という言葉だけにすがっているのは明らかだ。




「やめて! 止めてよぉ! 」

 カーリタースをかばうのはサフラだ。

 人を守る。

 それは彼女の信じる軍人の本分そのものだ。

 しかしそれは、自分の国が負けたとたん、消えてしまうと彼女の仲間が言っていた。




 そのワシリーが、突然外に引きずられた。

 装着車を透明人間にするメタマテリアルスーツを着込んだ専属カメラマン、編美の養父、アウグル=久 健太郎が捕まえたのだ。

 ワシリーは脇下からアウグルに腕を回された。

 回された手はワシリーの後頭部で握り合っている。




 だが、カーリタースの髪をつかんだワシリーは離れない。

「うわあ! 離せ! 畜生!! 」

 サフラが必死で叩くと、つかむ手はようやく離れた。




 ワシリーと2人の間に、小柄な体を生かして1号が滑り込む。

 ワシリーの上半身をアウグルが、足を1号が抑え込み、車外へ連行する。




 その時、運転席側のドアが開いた。

 現れたのはドラゴンメイドとワイバーンだ。

「救助に来たよ! 」

 そういてドラゴンメイドが差し出した手を、サフラは拒み、払った。

「痛ったぁ」

 チタン製の骨格に手を打ちつけてしまった。

 それでも顔が歪ませながらも、叫ぶ。

「なんなのよ! あの動画! 何であんなの見せたの?! 」

 その一言に、ドラゴンメイドの肩がガクッと落ちた。

「気持ちはわかる。でもそれは自分で考えること。それが義姉たちの願いよ」

 サフラは観念したように、ドラゴンメイドに引きたてられた。

「分からない。分からない」

 そう何度もつぶやきながら。




 ワイバーンが差し出した手は、しっかりカーリタースにつかまれた。

「大丈夫ですか!? 」

 支えられたカーリタースは、予想外の行動に出た。

 捕まったワシリーを見る目には、恨みは無かった。

「怖がらないで。僕もそうだった」

 全身あざだらけになりながら、ワシリーを許したのだ。

「もう少し待てば、心が落ち着いてくる。その時には、ちゃんと話を聞くから」




 サフラは、そんなカーリタースを信じられない様子で見つめている。

「さあ、行こう」

 ドラゴンメイドが声をかけた。

 サフラはまだうなだれながら、したがった。




 ドラゴンメイドは、一緒に外へ向かおうとした。

 その時目に入った、病室の立体映像。

 そこでは未だに、阿鼻叫喚地獄が続いている。

 ドラゴンメイドは、その強烈な不快感に耐えながら、足早に離れようとした。

 それでも彼女の耳は、特に意識しなくても音を事細かに聴いてしまう。

 叫び声に隠れた、ドアの向こうの声さえも。




『みんな並べ! 繋がれ! 』

 おとなの男性の声が、批判的な響きを持って届く。

(チダさんの声だ)

 千田 駈。

 ドラゴンメイドの知り合い。

 そして、PP社の提携する義肢メーカー・小山ブレイスの重役だ。

 福岡本社、精密重機械開発課課長。

 可変高規格双腕重機・オーバオックスやSMBVRKE(シムブバーク)対策車・キッスフレッシュの開発者で、ヒーローの機甲部門にはなくてはならない人。

 そして、屈指のタカ派でもある。

『ペチャンコに踏みつぶしてやれ! 』

 彼に従う大勢の返事と、足音。

 ドアの向こうでは大勢の猛者たちが病室に突入する準備を進めているに違いない。




「っつたく」

 ドラゴンメイドは悪態を一つつくと、その意識を電子的に、病室に送った。

(何か使えそうなものは……)




 病室を撮影するカメラ。

 それを載せた無人ロボットがある。

 BROKK 60という、スウェーデン製の遠隔解体ロボットだ。

 手のひらサイズのランナフォンとは違う。

 幅は60センチメートル、重さは500キログラムに及ぶ。

 見た目は、小さなユンボその物。

 黄色いボディに2帯の無限軌道を持ち、バッテリーで駆動する。

 車体の上に、アームのついた胴体ごと旋回するようになっている。