レイドリフト。ドラゴンメイド 第28話 達美の告白
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『何でこんな事にぃ!! 』
灰色の地下要塞。
ライブ映像はそこの病室から、チェ連人兵士達の不安を伝える。
『落ち着け! 今放送されたのはただの推理じゃないか! 』
怒髪天をつく様子で、祖国の未来を憂う声。
敗戦後、地獄のような祖国になるか不安げに考える声。
『でも、とても合理的な推理だと思います』
自分たちの居場所などない。という確信。
他にも意味のない叫び声、泣き声。
呆然とする者。ベッドにもぐりこんでいる者もいる。
勇気ある者など誰もいない、阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにあった。
地獄絵図は、達美専用車でも起こっていた。
サフラが、ワシリーが、ウルジンが、おびえている。
「また、宇宙船が降りてくる! 」
ワシリーが、折れていない右腕でスイッチアの世界地図を恨めしそうに指差した。
そこには異星人の宇宙船の軌道と降下地点が示されている。
「ボルケーナ怪獣が宇宙人居住区を開放してる! 俺たちを滅ぼしに来る! 」
世界地図のとなりには降下地点の一つからのライブ映像がある。
超巨大カメラ付き巨大タブレットを持った、ボルケーナ怪獣自身が撮ったものだ。
赤い鱗で覆われたカギ爪の生えた足が、分厚い塀を蹴飛ばしている。
その横には異星の兵士たちが今か今かと待ち構えている。
即座にカーリタースが否定する。
「そんなことはないよ。そもそもボルケーナがいるなら、人は死なないよ」
折れた右手は使えなくても、左手の平を見せてなだめながら。
それを聞いてワシリーはかえってへたり込んだ。
「それで? 俺達の国はどうなる? 」
傷ついた右手にもかかわらず、頭をかきむしる。
包帯から血が滲んでも、かまう事はなかった。
左腕を折ったウルジンも、傷をかばうことなく転げまわる。
「異星人も三種族も、我々を許さない! 俺たちは生きる価値もない! そう言うことにされるんだ! 」
シエロが捕まえられたのは、ウルジンだけ。
傷ついた腕をおさえようとする。それで精いっぱいだった。
「それに私達……」
片目をつぶされたサフラは、立ちすくんだまま叫びだした。
「政権を奪われたのにも気づかない。世界はすでに破壊されていたのに! 私たち、なんの役にも立ってない! 間抜け兵士よ! 」
病室からの映像にも、同じような叫びが流れた。
『もう、俺達の居場所はないんだ! 』
『きっと宇宙のすべてにあざ笑われる! 』
シエロは、それでも訴えかけた。
「私は、君らが好きだ。それでは生きる価値にならないのか? 」
それを言うのが精一杯だったが。
「気休めなんかいらない! 」
最後に残ったウルジンのプライドが、シエロの優しさを拒んだ。
答えはシエロのほおに張られた絆創膏の下を、力いっぱいひっかくことだった。
レイドリフト・ドラゴンメイド=真脇 達美は。と言うより猫一般は、小さな音に敏感に反応する。
猫が何もない空間をじっと凝視している姿を見たことがないだろうか。
あれは壁の向こうを走るネズミなどの獲物の足音を聴いている。
逆に、大きな音は嫌いだ。
雷や自動車、自分ではどうにもならない巨大な力を思い出させるから。
達美の場合、事情が多少異なる。
好きな音楽はロック。
激しい音を自分でコントロールできるのが快感だからだ。
銃撃戦の音だと、これを治めなくてはいけないと、使命感が燃えてくる。
だが病室と達美専用車を満たす叫びは、怯えを呼び覚ます音だ。
世界の断末魔ともいうべき、圧倒的絶望が込められた。
ドラゴンメイドは一目散に乗客を飛び超え、両手の爪を天井に立てた。
そのまま張り付くように、車内の空気を押しだす勢いで外へ。
目指すのは、自分に最も安心を与えてくれる存在。
外で待つレイドリフト・ワイバーン=鷲矢 武志。
ドラゴンメイドが肩に巻きつくと、ワイバーンは「うわ。うわ」と舌っ足らずな驚きの声を上げた。
全くかわいいな。とドラゴンメイドは考えながら肩車の格好でおさまリ、さらに尻尾を巻きつける。
そしてワイバーンの頭に抱きつくと、ようやく震えが止まった。
ワイバーンはドラゴンメイドの事情を察して、受け入れている。
この間、誰も手出しできなかった。
レイドリフト1号達、元の乗客も。ここで合流するメイトライ5のメンバーも。
周辺にはPP社の社員が大勢いた。
どれだけ走っても芝生がめくれないスタジアムは、今や野戦用の橋頭保。
ほとんどを埋めるのは車両だが、ドラゴンドレスやオーバオックス、キッスフレッシュや10式戦車、マークスレイのような兵器は少ない。
ほとんどは、現代日本で見られるようなSUVだ。
レイドリフトたちも、大多数はハイテクや魔法とは縁もゆかりもない。
手にするのはM-16やファマスと言った、地球の軍用ライフルたち。
その身には緑か茶色と言った目立たない色のセーターにズボン。
それに防弾チョッキとヘルメット。
顔はガスマスクか防弾が効く目出しマスク。
このマスクには、必ずペイントが施されている。
小さい物、大きいもの。
花であったり、スーパーカー、アニメキャラ、骸骨。
自らを正義のシンボルとするためだ。
普段ならデッドウエイトにならない物を身につけ、戦わなければいけない時、いてほしい者、象徴としたい物の中から一番インパクトのあるものを描いている。
これが、平均的なレイドリフトの姿だ。
ドラゴンメイドの猫耳と尾が、垂れ下がりから徐々に上がっていく。
機嫌が良くなってきた証拠だ。
だが、その安心感は一時のものでしかなかった。
次第に罪悪感がふくらんでくる。
自分は友達を止めるでもなだめるでもなく、逃げた。
「……ごめん」
周囲の冷たい視線を感じながら、名残惜しそうに、肩から降りた。
「みんな、行くぞ。捕虜救出隊だ」
一番小柄なレイドリフト1号=都丹素 巧に指示すると、周囲のレイドリフトたちが動きだす。
「据え置き型のシールドで周りを囲め! 」
ガスマスクと防弾マスクのレイドリフトたちが、SUVから地面に次々と運び出す。
シールドは鉄板を引き上げたり、折り紙の要領でたたんだケプラーを展開する。
ケプラーはしょせん布なので軽いが、上から見れば“コ”の字型の盾にしてあるため、大口径の銃弾でも受け止める。
これらが、達美専用車のまわりをぐるりと囲んだ。
「メイトライ5! 踏み込め! 」
ドラゴンメイドが属するアイドルグループだ。
達美専用車から持ちだした、ランナフォンを弾にするMGL140グレネードランチャーを置いていく。
まずはベースのオウルロード=久 編美。
銀色の西洋風甲冑は、立体映像とは思えない現実感。
作品名:レイドリフト。ドラゴンメイド 第28話 達美の告白 作家名:リューガ