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いい湯だね

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「さて流すよ」
滝行のように女の子の体を伝い、泡はみるみる排水溝に消えていった。
いつからか隣に来ていた年輩の男性が、その様子に声をかけた。
「いいねぇ。とうちゃんと銭湯なんて。かあちゃんはあっちの風呂かい?」と、顎で女湯のほうを指し示す仕草をした。
「いえ、嫁さんは来てないんですよ」
「そうかい、それはそれは 悪いこと訊いたかな?」
それに女の子は にこりと笑い答えた。
「ママはお腹大きくて、おばあちゃんとこに行ったの」
「おや、そうかい」
「おねえちゃんになるから お風呂もひとりで入るの」
「ほう、えらいねぇ」
父親も 体を流すと浴槽のへと浸かった。
「わたしもはいるぅ」
女の子は、父親のはいっている浴槽の縁に腰を掛けた。
「足付く?」
ここ最近ずっと利用していて初めてではない風呂だったが、二回目の時、嬉しさにはしゃいで浴槽内で足を取られて頭まで浸かってしまったのだ。それ以降、浴槽に入るときは訊くのだ。
「大丈夫、ゆっくり入ってごらん」
手を差し伸べ父親を求めるのだが、今回は、父親も見守るほうに徹した。
「足は届くよ。おねえちゃんになるからできるよね」
女の子は、水面を見つめた。もう一度、父親に手を差し伸べてみせた。
「大丈夫だってば。がんばれぇ」
女の子の隣りに 洗いを終えた先ほどの男性がしゃがんだ。
「おっちゃんが一緒に入ったろうか?」
女の子は、男性の顔を見ると、首を横に振った。
「おお、可愛らしい顔して根性あるね。じゃ、おっちゃんは、お先に入るとするか」
横から すんなりと浴槽にはいっていく男性を口を尖らせてにらんだ。
そんな娘に「おかあさんにも報告しようかな? おねえちゃんになるから頑張ったよって」と父親は励ました。
「ほんと?」
女の子は、足を湯に伸ばし、浴槽の縁に掴まりながら浴槽へとはいった。

「おう、できたねぇ」
その浴場にいるおじさん、おじいさんが女の子を見た。中には拍手をした者もいた。
僕も!とばかりに小学生の男の子が浴槽にはしゃいで飛び込み、その水しぶきに叱られてしまった。

作品名:いい湯だね 作家名:甜茶