残念ながら
「そんな昔の…曾祖父ちゃんの恩、返して貰わなくても…」
居間に招き入れた豆狸の少女に、都さんは座布団を勧めました。
「困ります!」
「…何で?」
「受けた恩を返さないなんて、人間の様な事…豆狸には許されません!!」
座布団にちょこんと正座して、力説する豆狸に、都さんが苦笑します。
「辛辣だね…」
「─ すいません」
すっかり恐縮した豆狸の前に、都さんは湯呑み茶碗を差し出しました。
「で、どうしてくれるのかな?」
問い掛けた豆狸の目に、困惑が浮かびます。
「…何をしたら、恩返しになるんでしょうか?」
「─ は?」
都さんは、自分の茶碗に伸ばしていた手を止めました。
「機でも…織ってみる?」
「私…鶴じゃないんで」
「…まあ、織ると言われても…機がないから無理なんだけどね」
再び、茶碗に手を動かした都さんのに向かって、豆狸が軽く身を乗り出します。
「サイコロになら…化けられますよ?」
「…『狸賽』、知ってる?」
「<梅鉢>って言われたら…ちゃんと出せます! 5の目」
「─ 残念ながら、それを生かせる場が…ないんだよねぇ」
豆狸は縋るような目で、茶碗を口に運ぶ都さんの動きを追いました。
「金の茶釜に、化けるというのは…」
「お寺に売られて…タワシで擦られたり、火に かけられても…大丈夫なら、止めない。」
「大丈夫じゃ…ないです。。。」