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かき揚げ丼 フロンティア

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 それはノーチアサンさんの後ろに近づいてきた鳥のような怪獣に命中した。
 船体からミサイルが、レーザーが、四方八方に発射される。
 鳥怪獣が、一瞬で焼き尽くされて落ちていった。
 ディミーチさんのハンマーには、バリアを無効化する機能があるんだ。
 それがバリア・ブリーチング。

 だが、喜んでいる場合じゃない!
 オルバイファスさんの言うとおりだ!
 また一体の怪獣が飲み込まれることで、カオスの大砲が砲塔となって動き出した。
 その砲口が、生徒会とチェ連兵の集まる場所を向く。
 それまで戦っていた怪獣たちが、一斉にその場を離れた。

 両者の間に、阻むものは何もない!
 もうだめだ!

 僕は、思わず目をつむった。
 しかし、いつまで経っても、砲弾が味方を打ちのめした。という報告は聞こえなかった。
 あまりの仕打ちに皆、茫然自失になっているのか?
 いや、違った。
 カオスの大砲の先に、あの撃ち落とされた鳥怪獣がいた。
 その焼けて飛べなくなった翼を、猿のような怪獣が肩を貸して歩いてくる。
 あの二人を慮ったのか。
 ……あんな姿になったのも、何らかの優しさのため。なのか?

 突然、触手の先のワニの顔が吠えた!
 街全体を揺らし、瓦礫が浮き上がるような声で!
 その声を聴いたあと、怪獣たちの行動は決まった。
 一目散にカオスに向かい、その身を合体させ始めた。
 カオスは、合体しながら首をさらに伸ばして生徒会とチェ連軍に突っ込んでいった。
 当然、無数の攻撃に晒される。
 それにも構わず押し通ると、とどめを刺さずに、今度は鳥と猿の怪獣へ向かった。
 その口の先に、見えた。くわえられたディミーチさんのハンマーが。
 不器用に歩く巨体に、次々に爆撃がくわえられる。
 その一つ一つが余波だけでビルを崩す、オルバイファスさんのビーム砲だ。

 それでもカオスは止まらない。
 あっという間に、残る2匹、猿と鳥の怪獣の前にたどり着いた。
 そこで一旦ハンマーを起き、二匹を飲み込んだ。
 その時、見えたんだ。
 人間に比較的似た猿の顔が、にっこり笑っているのが。

 カオスにめがけて、すべての攻撃が集中してきた。
 それをカオスはバリアで防ぐ。
 火花が散るその中で、カオスは形を整えているようだ。

「そ、そうだ」
 僕の口から、疑問が思ったまま出てきた。
「さらわれたという人たちは!? どこにいるんですか!? 」
 今は迷惑になるとかは、考えられなかった。 

「全て、あの怪獣の中にいます」
 意外にも、答えてくれたのは、一番硬そうなサフラさんだった。
「さらわれた、というのは正しくありません。彼らは、もともと我が国の未来に悲観していた人たちばかり。怪獣になってまで我が国を攻撃し、宇宙へ連れて行ってもらおうと考えているのです! 」

 巨大な爆炎が、中から丸く吹き飛ばされた。
 中で巨大な羽が羽ばたいたからだ。
 爆炎の中には、何もいない。
 もう空中にいて、こっちへ向かってくる!

 一目見ての感想は、きれいの一言だった。
 6本の腕と3つの顔を持つ異形でありながら、均整の取れた有名な仏像、阿修羅像のような。
 そのすがたは、燃える赤い龍か?
 ワニの様な顔と镸い首はそのままだが、胴体は分厚い暑い胸板と腹筋。
 その胸板は4本の腕と2枚の翼をしっかり支えている。
 腕は毛むくじゃらの筋肉質なもの。機械のもの。カマキリのような鎌を持つもの。そして砲塔。
 翼は途中までは鳥のように羽が生えているが、先端はコウモリのように膜が貼っている。
 足はダチョウのように長く、早く走れそうだ。
 そして永い尾の先には、金属のきらめきがある3本の鉤爪。
 
 そしてディミーチさんから奪ったハンマーは、毛むくじゃらの右腕に握られていた。
 カオスの砲撃。しかも口から火を吐いてきた。
 ノーチアサンさんはそれを見越して、先に回避行動を撮っていた。

 激しい打ち合いを見ながら、僕らは体重が何倍にもなる遠心力に耐えねばならなかった。
 これが高G戦闘という奴か。
 おかしい。ノーチアサンさんには、重力制御装置があって、遠心力を打ち消せるのに。
 ……つまり、その分のエネルギーも砲撃に使っているのか。

 その時、カオスの尾が迫ってくるのが見えた。
 その鉤爪には、ディミーチさんのハンマーが握られていた。
 艦全体が、がくんと揺れた。
 ノーチアサンさんの横腹に突き刺さったカオスの尾。
 そこから炎と煙が上がっている!

「! 留置場を破られました! 3人の逮捕者が怪獣化! 大怪獣に同化していきます! 」
 オペレーターが言っていることが、感覚でわかる。
 船体の中で、固くて巨大なものが周りを押しのける音。
 その直後、艦が横倒しになった。

 この衝撃は、すぐに重力制御装置が軽減してくれた。
 窓からは、こっちに背を向けて飛ぶカオス。
 だが、飛び去るわけではなかった。
 遠ざかるのは、地上の方だ。 
「ひ、人質にされた! 」
 そうさとったとき、艦のモニターが消え、艦橋が暗くなった。
「ノーチアサンさん!? 」
 金属音はさらに激しくなる。
『バリアを使って、やつの尾の排除を試みている! 』

 そ、そうだ。さっき思いついた方法を!
 魔法陣を書き上げるんだ。
 “平和”を!
 だが、その魔法陣は、何も起こすことなく消えてしまった。

 喉の奥が、悔しさで苦しくなった。
 と同時に、叫び声が溢れた。
「どうしたんです!? 早くガスマスクをつけてください! 」

 サフラさんの優しさが、僕には申し訳なくてたまらなかった。
「ごめんなさい! 僕がここに来たのは、僕自身の意思じゃ無かった! 」
 涙で視界が歪む。それでも多くの顔がこっちを向いているのは見えた。
「魔法陣に、平和と書きました。でも、何も起こらない! どんな魔法陣でも書ける能力なのに! 」
 これは、一つの恐ろしい事実を示すものだ。
「きっと、何者かの陰謀だ! 僕を調子づかせるか、皆さんの信用を得たところで爆発させるような! な、なんとかしてぇ! 」
 いや、他力本願はだめだ。
 もう、スイッチアの空に飛び降りようか。
 そう考えてシートベルトを外そうと手を伸ばした。

 その手を、サフラさんに止められた。
「ねえ。魔法って、本人の明確なイメージがないと、発動しないんですよね」
 となりの生徒会オペレーターが、ええ。そうです。と認めてくれた。
「あなたは、何がしたいの? 」
 一瞬、あっけにとられた。
 涙で視界が歪んでるはずなのに、僕にはその一言が、天使のような微笑みを持って発せられたように思えた。

 なんで、あいつをやっつけて、と言わないんだろう。
 平和を望みながら、敵を全滅させようとか、歩み寄れる環境を作ろうとか、そういうイメージをしなかったのは確かだ。
 イメージを明確に作れるなら、“帰”なら確実だ。
 自分の部屋、ベッド、小説を打ち込むタブレット、パソコン、日常。
 それをイメージするだけでいい。
 僕だけ逃げだす可能性に、気づかないはずないのに。

「ポルタ発生! 巨大な物体がポルタアウトしてきます! 」
 オペレーターが叫んだ。