かき揚げ丼 フロンティア
それに対し僕は、テロリストがどこで爆弾を製造し保管しているか、その調書をかける。
テレパシーで記憶をのぞける能力者もいる。
それでもあやふやな点があるらしい。
相手の正しい記憶なのか、暗示などによる思い込みなのか、はっきりしないからだ。
僕の場合、この調書として残るのも大きな利点だった。
できた調書をほかの容疑者に見せたら、もう観念したのか次々に証言が集まった。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
さらに翌日。
ノーチアサンさんは、灰色の雲から出て地上へ向かった。
灰色の雲は成層圏エーロゾル。
火山の噴火によって放たれた二酸化流黄ガスが硫酸水滴になった。つまり酸性雨の雲だ。
この火山噴火自体、宇宙人の攻撃によるものだそうだ。
僕は今、船の一番高いところ、艦橋にいる。
数人の士官・・・・・ぽい生徒と共に、いかにも司令部、CIC(コンバット・インフォメーション・センター)な部屋にいる。
そこで席をあてがわれている。
サフラさんもいっしょだ。
「南さん、調書を描いていただいた時点で、あなたのお仕事は終わりです。
これからの作戦をご覧になって、途中で帰ってしまわれても、それは喜ぶべきことです。
これまでありがとうございました」
僕も、頭を下げた。
「そうですか。こちらこそ、ありがとうございました」
今僕が着ているのは、全身を覆う黒いプロテクター。
しかも、機械で体力をサポートしている。
本物のパワードスーツだ!
それとヘルメットと、腰のポーチに入ったガスマスク。
これらも生徒会の手作りらしい。
CICには多数のモニター。元いた地球では見たことのない、立体映像まである。
地上の様子は、そこに映されていた。
雲を突き抜けると、格子状に並んだ大通りが見えた。
大通りを挟んで近代的なビルが並んでいる。
元は整然とした大都市だったのだろう。
それが今は、崩れたり、焼け焦げたりしている。
そのど真ん中に、生徒会は降下している。
木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。
自動で書き上がったような調書を読んだ時、僕が思い出せたのはその一言だった。
見晴らしのいい窓には、灰色の空しか見えない。
その空を、全長30メートルの戦闘機形態に変形したオルバイファスさんが飛んでいる。
3日間チェ連にいて、わかったことがある。
彼がこの船にいる人々のリーダーのようだ。
宇宙傭兵団ロボリューション。
そのリーダーがオルバイファスさんの前の職業だ。
いくつもの惑星間戦争で決定的勝利をものにし、“外敵から守るため、やむなくある星を指揮下に置いた”経験を持つ。
でもそれは、侵略というのではあるまいか。
以前本で読んだ、ヤクザの誕生物語を思い出した。
徳川 家康が江戸にやって来た時、周りは広大な沼地だったそうだ。
家康公は、そこへ大勢の労働者を呼び寄せた。
当然、若くて力の強い男ばかり。
人が多ければ、喧嘩も多くなる。
家康公は強い人に力で押さえつける権利を与えた。
それがヤクザの始まりだったらしい。
いけない。もっと落ち着かないと。
さっきから僕の手は、レミュールさんから教わった魔法陣の練習を反芻している。
まず丸を書く。
円熟という言葉があるように、この丸は魔法の力をためておく器。その概念だ。
今は練習だから、手で払って消す。
次に、“火”と書く。
自分が火であるように、強く、強くイメージしながら。
書かれた文字は、空中でオレンジ色の火となった。
すぐに散ってしまう、はかない火だが。
先ほどの円の中に火を書き入れると、器の中で火の概念が安定する。
すると……あ! 円消すの忘れた!
ボムっ!
火は瞬く間に大きく育ち、瞬時に自動消火装置が作動した。
天井からロボットアームが降りてきて、二酸化炭素が吹き付けられる。
二酸化炭素が温暖化を引き起こす、温度を吸い取るって、ほんとだね。
寒い!
「気を付けてください! 」
周囲の怒声と視線も寒い。
「ごめんなさい」
その時、地上を映すモニターに、光が増えた。
レモン色で、地上からここまで、連続して登ってくる。
それも、幾筋も。
「対空砲火を受けています! 」
オペレーターの一人の声を聞いた時、手が止まった。
あ、またうっかりだ!
途中で手が止まると!……魔法陣は消えていった。
対空砲火は激しさを増す。
ひときわ大きく1発だけあがってくる光はミサイルだろう。
だが、衝撃は来ない。
音さえ聞こえない。
それどころか、ノーチアサンさんはぐんぐん降下速度を上げていく。
もしかすると、街がはっきり見えてきたから、スピードを正しく感知できるようになっただけかもしれない。
街の中で、比較的無事そうに見えたビル。
その屋上に、自動小銃や肩撃ち式対空ミサイルを持った数人の影。
それと2つの銃身を持つ対空砲が見えた。
いかにも古めかしい。後ろに人が座り、目で見て操作する奴だ。
操作している男に、カメラは向いている。
『突入! 開始!』
オルバイファスさんからの無線連絡。その直後、初めて艦が揺れた。
その時、屋上を肌色の巨大な何かがなでた。
手だ。しばらくかかったが、それは人間の手だと気付いた。
気づく間に、屋上は形を失った。
コンクリートは灰色の砂、いや、ホコリかもしれない。とにかくバラバラになって、最上階に落ちていった。
砕け散ったのはコンクリートだけ。
人間たちはコンクリートに埋め込まれていた鉄筋に引っかかった。
巨大な半透明の手が、もう一度なでる。
次は、手にした銃と、対空砲、武器が粉々になった。
この能力が誰の物かは、CGで描かれた配置表を見ればわかる。
舳先をビルに乗せた格好で止まるノーチアサンさん。
その船尾下に、しゃがむ巨大な人影がある。
音楽部部長、竜崎 舞。
あのベースの女の子は、物質を構成する結合力を自在に操れる。
それを操れば巨人にもなれるし、硬い物も灰にできる。
カメラで、テロリスト達の顔がいくつも写しだされる。
その顔は、いかにも悔しそうだ。
彼らは赤い影にさらわれて、次々に見えなくなった。
アイドルの備品、真脇 達美。
彼女は今、背中から金属の羽とジェットエンジンを展開して飛び回っているはずだ。
配置表では、名前と大まかな行動エリアしか表示できないスピードで。
この映像はすぐ消えた。
だが、見るべき映像はまだある。
周辺の地図には、展開するチェ連軍がミドリのマークとなって描かれる。
え~と。どれが戦車で、どれが歩兵だっけ?
ターゲットのビルから、次々に自動車が走りだした。
「これは、テレパシーで操ったテロリストですね」
横を走られたチェ連兵士も、何もしない。
これでテロリストは逃げる足を失った。
モニターには空中で多数のドローンが撮影した物もある。
一番驚いたのは、ターゲットのビルの中身が最上階から次々に明らかになり、3DのCGとして再現されていく事だ!
作品名:かき揚げ丼 フロンティア 作家名:リューガ