かき揚げ丼 フロンティア
彼は、左手で大砲の機関部らしき場所をいじりだした。
ガコン! と、重い金属音と共に、なにか細長い、と言っても太さ60センチはあるものを取り出した。
『これを折ってみろ』
先ほどより大きく、低くよく響く声。
そして差し出された物は、明らかに大砲の玉だった!!
『レールガンだ。火薬の類は入っていない。安心して折れ』
へえ。
レールガンとは、2本の平行に並んだ導線に、弾丸を挟み込み、そこに電流を流すことで弾丸を発射する銃だね。
確かにそれなら発射に火薬はいらない――。
『早く折れ』
その一言で、僕は内臓をわしづかみされたような恐怖に襲われた。
次の瞬間、バキバキッっと派手な音を立てて、砲弾は砕け散った。
『どうやら、興奮状態になると力を発揮するようだな。
それはタングステン製の徹甲弾だ』
それって、戦車の最も分厚い装甲も貫けますか?
『よく知ってるな。その力を、もっと自覚しろ』
僕が叫んだり、ひっくり返ったりせずに済んだのは、こういう驚きが他のメンバーのも合わせると何度目かになるからだ。
超次元技術研究開発機構、通称・魔術学園。
彼らの世界にも日本という国はある。
その日本政府が、宇宙人や異世界人の協力を得て作り上げたのが、その学園だ。
目の前にいる二人と、その仲間たちは、高等部の生徒総会議員。
彼らは、チェ連に異世界召喚されたんだ。
レミュールさんは魔法部部長。
オルバイファスさんはテニス部の部長。
ついでに言うと、僕らがいまいる場所も議員の体内だ。
水泳部部長、ノーチアサン。
オルバイファスさんと同じ、人間に擬態できるメカ生命体。
今は、ホオジロザメのような精悍な姿で、全長170メートルの体を生徒会の根城として提供している。
いや、それどころじゃない。
「……どうすればいいんですか? 」
僕の心に、非常に対する根源的な感情、恐怖がわき上がる。
たしかに僕は、主人公が異世界に召喚されて冒険する小説を書きたいと願った。
けど、自分が来てしまうなんて!!
「僕はどうやったら帰れるんですか!? もっとかき揚げ丼を食べて、ビールを飲めばいいんですか!? 」
「そんなことをしても、健康を損なうだけですよ」
レミュールさんが、僕への同情をこめて答えた。
「なあ。魔法なら、かけられた目的があるんじゃないか? 」
その時、オルバイファスさんが人間の姿に戻りながら声をかけた。
「小説を書き上げるのに必要な事をさせる。それしかないだろう。それは取材だ」
僕が書こうとした小説は、異世界召喚物だから、理屈は合うと思うんだけど。
「待ってください! 彼は異能のない世界からきたんですよ!? 」
そう!
レミュールさんの言うとうり、僕に異能を使うノウハウなんかない。
それでも、オルバイファスさんは考えがあるようだ。
「彼は、自分を信じて臨んだからここにいる。それが前提なら、信じる心がなければ魔法が消えてしまうではないか。だから我も、南を信じることにする」
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その夜、ノーチアサンさんの胴体にある食堂に通された。
まさに戦艦の中らしい。
ならぶ長テーブルで、40人近い生徒会と士官候補生たちと、寄り添うように固まった。
それにしても、滅亡寸前の世界にしては豪華な料理が、すし詰め状態に並んでいる。
……というより、飛び切り新鮮な材料を、腕によりをかけて生き生きと作ってないか?
生の果物や刺身まである。
「最近、日本と小規模なポルタが開いたのよ」
そう言ったのは、自慢げに笑う日本人の少女シェフ。
胸に城戸 智慧と書いていた彼女の足は、ギブスで固定されており、電動車いすに乗っていた。
以前の戦いで負傷したらしい。
えーと、ポルタって、次元を超える門の事?
「そうよ」
それにしては、あの二人の生徒だけ違う物を食べてるようだけど?
味の濃そうなスープに入った、缶詰みたいじゃない?
「ああ、あの二人はタンパク質の形が地球人とは違う、異星人なのよ」
その2人は、見た目は地球人の男女そっくりだ。
「擬態だよ。ロボットの体に、次元湾曲機能を使って入ってるんだ」
彼らは気にするな。というように笑いかけながらそう言った。
オルバイファスさんもいっしょなのか。
テーブルの前には、申し訳程度のステージがある。
まずは、生徒会長ユニバース・ニューマンさんのあいさつ。
金色の髪はショートボブ。
透き通るような青い瞳。
そしてグラマス美女だ。
「わたしたちも、学園に帰れるめどがつきました。あなただって、きっと帰れますよ」
こういうのを、身に余る待遇というのかな。
続いて、大音響のロックが聞こえてきた。
ギター兼ボーカルとベースの二人だけのミニコンサート。
ベースは音楽部の部長、竜崎 舞。
ショートカットの黒髪に、大きな瞳が可愛い少女だ。
異能力のせいで言葉がしゃべれないというハンデを抱えながら、その腕前で16歳の1年生で部長に就任した才女。
ギター兼ボーカルは彼らの地球の人気アイドル、真脇 達美。
アイドルは、赤い髪に猫耳としっぽをつけた女の子の姿をしていた。
何と真脇さんは、わき腹にエレキギター用のアンプがあり、そこにコードを差し込んでいた!
口から流れるのは歌とギターの音色。
もしや、これこそが猫型ロボットか!? と思ったが、事故で体を失った猫に機械の体を与えたサイボーグだった。
彼女は生徒ではなく備品、つまり正式にはペット扱いらしい。
まさか、ネズミの大群と闘ったり!? と思ったが、あちらの世界の猫は魔法の細かい流れが見えるらしく、教材としてらしい。
ミニコンサートなのに、そこは素晴らしく別世界のようにきらびやかに見えた。
明るい、希望に満ちた歌。
少し勇気づけられた。
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翌日。
僕に、取材を兼ねた仕事が割り振られた。
それは、取り調べる容疑者の調書を描くこと。
取り調べるのはサフラさんだ。
この船には、彼女のように生徒会をサポートする士官候補生がたくさんいた。
僕は、船内の留置場に通された。
地上の警察署には警官も少なく、いても経験のない人ばかり。
まともに機能していないらしい。
テロ組織の名は『気高き敗者奴隷バンザイ団』
何となく吹き出してしまった名前だが、彼らの過去は凄惨その物さ。
彼らは、チェ連は宇宙に負けた国家で、無価値だと自分たちを納得させていた。
それを理由に、より命を活躍させるため、と称して自国民を異星人マフィアへ売っていた。
異星人マフィアが渡した怪獣を武器にする。
調書を書き始めていきなり、僕の能力のすごい効果が明らかになった。
容疑者がこれから話すことを、まだ話していないのに書いてしまえるのだ。
生徒会の中には予知能力者もいるが、それとは違う。
彼が見えるのは、もっと大きな変化らしい。
例えば、テロリストが爆弾を持っていた場合、数日後に爆発する様子が見える。
作品名:かき揚げ丼 フロンティア 作家名:リューガ