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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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「おまえが謝らなくてもいいよ。なにも間違ってない。俺が全面的に反省すべきなんだ」
「…でもひどいことしたし、言ったし、泣いたし、情けない…」

ずび、と一つ鼻をすすって、たてた膝に顔をうずめる瑞。その姿に、伊吹はほっとする。自分たちはおんなじ風に悩んだり、傷ついたり、怖がったりしている。そのことに、安心する。こんなとき浮世離れしたこいつを、誰よりも身近に感じるのだ。悲しければ悲しいときほど。苦しければ苦しいときほど。思いがすれ違うほど、同じ気持ちをわけあえるのだということがわかるから。

「おまえに返すものがあるんだ」
「なに…?」

伊吹は鼻水をすする瑞に、ポケットから取り出したあの古びた櫛を差し出す。

「大切なものを借りていた。ありがとう」

命を守ってもらったと思う。あのとき、女が動きをとめて去ったのは、この櫛のおかげなのだという確信が伊吹にはあった。気休めのお守りではなく、なにか不思議な力を秘めているのではないだろうか。そしてそれを伊吹に託したのは…。

「俺、こんなの…貸してない…」

瑞は戸惑っている。それはそうだろう。しかしその櫛を受け取ると。

「…貸した覚えはないのに、なんでだろう。これは確かに、俺のものだったような気がする…」

そう言って、その櫛をじっと見つめるのだった。

「大事なものだって、おまえは言ってたぞ」

確かにそう言っていた。あの夢のような、しかしはっきりとした現実の中で交わした会話を、伊吹は鮮明に覚えている。


「――思い出したい、全部」


瑞はそれだけ言って、黙り込んだ。
冬の到来を告げる冷たい風が吹き付けてくる。それぞれの心に様々な思いを残し、事件はこうして決着をみたのだった。




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