そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
「そのときは俺も行く」
「でもおまえ、あそこ入れないだろ」
「入れなくても、待ってる」
「そうか」
静かに秋が行く。羊雲が芸術作品のような模様を描いていた。
「おまたせー!バターもらってきた!」
郁と志帆を連れて、颯馬が戻ってきた。お盆にバターやらお茶を載せて。
「志帆さん、平気?」
彼女は、伊吹の問いに小さく微笑み返し頷いた。
「郁ちゃんと話してて、元気出てきました」
「えー、なんの話してたのー?」
颯馬がアルミホイルを開きながら尋ねる。
「好きなひとの話とか…」
「なんだって!なぜ俺を呼ばないんだ郁ちゃん!」
「颯馬くんはお芋焼いてたじゃん」
「…いい匂い。いただきます」
秋空の下で、みんなでジャガイモを食べる。あつあつの芋の上でとろけたバターの匂いが食欲をそそった。
「…今夜で、全部終わらせられるかな。お兄ちゃんに、戻ってきてもらえるかな」
小さな志帆の呟きが、ぽつりと秋風に流れていった。
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作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白