そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
少しだけ見開かれた目は、空の彼方を、いまではないいつかへ向けられているように空虚だった。
「須丸」
「え?はい、なんですか」
我に返って笑顔を見せる。
「……なんかぶつぶつ言ってたぞ」
「そう…ですか?」
おかしなやつだ。でもなぜだろう、こいつが遠い場所を見据えるような目をするたび、伊吹は猛烈に不安になる。
「せんぱーい、見て見て!ジャガイモやいてみたー!」
深刻な心のうちを吹き飛ばす呑気な声に顔を上げると、颯馬がアルミホイルのつつみを火箸で挟み、高々と掲げているのが見えた。伊吹は思わず吹き出す。あいつは本当に、いい意味で空気が読めない。まわりに流されないマイペースさと愛される才能はピカイチだ。
「ヒトガタ焼いた火で、イモ焼いたんかよ…」
瑞が渋い顔をしている。まあいいではないか。あいつの明るさに、今回はいろんな意味で救われている気がする伊吹だった。
「颯馬はいっつもなんか焼いてるな。まえはシイノミだった」
「ねー、バターつけて食べよー。ちゃんと濡らした新聞で包んで焼いたから、ほかほかだよ。郁ちゃんたち呼んでくるね」
縁側で靴をぽいっと脱いで、颯馬は客間へ向かった。
「元気ですねあいつ」
「呪いも吹っ飛ばすとか…どんだけだよ」
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白