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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編

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惨劇の夜



ボーン、ボーン…

鐘がなっている。音。これはそう、客間の柱時計の音だ。郁は静かに覚醒し、隣で眠る志帆が深く眠っている様子を確認する。

「ごめんね、寝ちゃってた…」
「いいよ。まだ何も起きてない」

瑞と颯馬が明るい光の下で話をしていた。横になっている伊吹は眠っているようで、静かな寝息が聞こえている。

「二時の鐘が鳴ったよね?」
「ああ。昨日足音が聞こえた時刻が近い」

布団からはい出し、郁は辺りを見渡す。清潔な六畳の和室に変化はなく、部屋の外では物音ひとつしない。静かすぎる夜だ。

「二人とも寝てないの?大丈夫?」
「交代でちょっと寝た」
「お腹空いてきたねー」

三人でどうでもいい話を交わしていた。このまま何事もなく夜が明ければいいのに。郁のそんな祈りは、虚しかった。

「……」

ギィー…

ぴん、と会話が途切れ、三人は口を閉ざした。何か、聞こえた。ひどく不愉快な音。

ギィー…、ギィー…、ギィー…

それは確かに足音だった。郁は全身を硬直させ、その音を確実にとらえようと集中する。廊下を、誰かが歩いてくる。

「きた」

いつの間にか布団の上に上体を起こしていた伊吹が、真っ青な顔で襖を睨む。彼の周囲には、天狗神社の御神水で結界が張ってあるはずだが、表情は苦しげだ。