そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編
茫然と佇む。夢と現実がつながったのか。混乱する頭で、じっと灯篭の火を見つめていると。
「…裸足で何してるんですか」
背後から呼ばれた。廊下から瑞がやってくる。
「須丸」
心配して様子を見に来てくれたらしい。いま目の前にいた瑞ではない。寝巻姿で、ミルクティーの髪も短い。さっきの瑞は、やはりこの瑞とは違う瑞…。
「…ごめん、戻るよ」
一抹の寂しさを感じながら縁側に上る。
「おまえさ」
「はい?」
不思議そうに見降ろしてくる瑞を、軽く睨んでやる。
「…ばいばいくらい言え」
「え?」
キョトンとしている瑞。
唐突に現れては風の様に消えていく、過去。ゆっくり話をできればいいのに、それもかなわない。夢にだって、出てくるのは稀だった。
「さっきは、悪かったな」
「…俺も、ひどいこと言いました。ごめんなさい」
しおらしく謝る瑞に、伊吹は吹き出す。
「しかしほんっと、語彙力の貧しい悪口だったこと!」
「わ、悪口達者なやつのが嫌でしょ!俺が素直で心優しい子だっていう証拠だと思いません!?」
「言えてる。あんぽんたんでいいや、おまえとのケンカは」
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 後編 作家名:ひなた眞白