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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Hidden swivel

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 神沢は淡々と言った。織島はそれに合わせるようにうなずいた。瓦は、この二人に聞きたいことが山ほどあるのを思い出して、言った。
「大島のことを知ってるのか? あいつが犯人なんだな?」
 二人はうなずいた。野崎は後部座席のドアを開けた。瓦はうなずいた。
「じゃあ、追いかけるか? 今逃げられたら、もうチャンスはないぞ」
 野崎は後部座席を通ってもぞもぞと助手席にたどり着き、神沢と織島は後部座席に乗り込んだ。シートベルトを締めたとき、真っ黒な影が真横を通り抜けていき、瓦は思わず車の中で飛びのいた。野崎はそれに合わせて悲鳴をあげ、遠くで赤い光が二つ灯ったときに初めて、影が別の車であることに気づいた。

 姫浦がヘッドライトを点けた瞬間、全てが元通りになったように、遠野はシートに体を預けた。
「あんた、どんな目してんだ?」
 姫浦はインプレッサXVのアクセルを底まで踏み込んで農道の終端まで走りきると、ギャランが曲がっていった道路を同じ方向に曲がった。再びアクセルを全開にすると、すぐにテールライトと青い煙が見えてきて、遠野は言った。
「あいつ、誰なんだよ!?」
「わたしにも分かりませんが、あなたは車の中を見たいんでしょう」
 遠野は、姫浦が忠実に命令を守っていることに気づいて、呆れたように言った。
「俺が言ったからなのか?」
「はい」
 姫浦はそう言って、さらに車間を詰めた。運転席の男はパニックになったように、携帯電話を耳に当てていた。

「出ないの?」
 御池が言うと、島内はポケットで鳴っている携帯電話に一瞬目を向けて、首を横に振った。
「出ないよ」
 グランドハイエースの重い車体を揺すりながら、山道を走る。特に楽しいものではなかった。今までは、何もかもが、噛み終えたガムみたいに味気なく感じていた。もう噛む必要はないのに、習慣でずっと噛み続けてしまう。島内の考える人生は、そのようなものだった。しかし、今は違った。押村がいない間に、御池とレストランで話したことが現実になったことが、価値観をひっくり返したように思えた。
「これからどうすんだよ、押忍はマジで怒るだろ」
 御池が言うと、島内は鼻で笑った。
「その時は、また予言してくれよ」
「何のこと?」
 御池が言うと、島内はバックミラーを一瞬見た。そして、それがまだ後ろにいるように親指で背後を指差した。
「さっきメシ食ってるときに、何が起きたら抜けるか言ってたろ?」
 それ自体が遠い昔であるように、御池は目を細めた。そしてすぐに思い出した様子でうなずいた。お化けを見たら抜ける。確かにあの時、そのようなことを言った。
「いたんだよ。家に!」
 島内はまだ腕に残る鳥肌を抑えるように、ハンドルを強く握った。御池が呆気に取られていると、続けた。
「赤いジャージの女が窓からじっとこっちを見てて、人差し指を口に当てたんだ。こうやって」
 島内はその真似ができている確信がなかったが、怖がらせるには十分すぎたようで、御池は首を縮めて震え上がった。

 大きな国道に出たとき、遠くで大きな衝突音を聞いた瓦は、ギャランが事故を起こしたことを確信した。
「事故ったな」
 野崎は助手席から、後部座席の二人の様子をそれとなく伺った。二人とも、緊張を隠せない様子で、お互いの顔を見合わせたり、組んだ手を力いっぱい握り締めたり、神経を尖らせているように見えた。十分も走らない内に、道は山道へと変わった。左右の景色が真っ黒な森に変わり、カーブが険しくなった。スピードを落として走っていると、長い直線の先でガードレールが裂けているのが目に留まった。瓦は言った。
「あの場所じゃないか?」
 それは誰にともなく言った言葉だったが、野崎が拾った。
「そうだよ、多分」
 雪に覆われた平らな空き地。そのど真ん中で、ギャランは上下逆さまにひっくりかえっていた。ランドクルーザーをガードレールの隙間から空き地に進入させて、瓦はエンジンをかけたまま運転席から降りた。
「曲がりきれなかったな」
 また独り言のように言うと、瓦は運転席を覗き込んだ。野崎が雪の上に残る大きな跡に気づいて、瓦をつついた。
「ねえ、これ何かな?」
 瓦は、雪が不自然になくなっている箇所を目に留めた。まっすぐ、バリカンで刈ったように雪が薄くなっていた。

 森の中で、姫浦はタイラップをポケットから取り出した。遠野が直感的に制止しようとすると、事故で気絶した押村の片手に一本を巻きつけ、もう一本を細い木に通すと、手錠のようにすでに巻いたタイラップへ巻きつけた。タオルを取り出して、それを目隠し代わりに顔へ巻きつけると、姫浦は言った。
「事故は予測してませんでした。戻りましょうか」
「ああ、そうだな」
 遠野は一歩を踏み出そうとしたが、姫浦がすぐに思い直したように肩を掴んだ。
「待ってください。あのランドクルーザーがいます」
「どこに?」
「静かに。車のところです」
 姫浦は身を低くして、様子を伺った。担ぐと足跡から人数を予測される。そう考えた姫浦は、押村の体を敢えて引きずった。どちらにしろ、相手はこちらの人数を読めないまま、森の中まで探しに来る可能性が高い。

 瓦は、はっきりとした足跡がどこにも見当たらないことを疑問に感じながら、雪が薄くなったところをじっと観察した。まるで、そりに乗って逃げたように見えた。じっくりと目を凝らせると、足跡らしきものは見えたが、それは進行方向と後ろ向きの形に見えた。
「くそっ、どこまで行っても幽霊みたいな奴だ」
 瓦は舌打ちしながら、ギャランの周りをぐるりと一周した。
「こいつ、まだ殺してんじゃねえだろうな」
 野崎は、瓦の独り言を聞きながら、肩を寄せ合っている神沢と織島の様子をちらちらと伺った。その言葉は、かつて事件を担当した元刑事にしては無神経に思えた。野崎は二人のほうへ少し近寄り、言った。
「ねえ、二人は今は大学生?」
 二人は力なくうなずいた。野崎は年齢を計算しながら、納得したようにうなずいた。
「二十一歳ってことだよねえ、じゃあわたしはひとつ上かあ」
 野崎が世間話で話を逸らせていると、大きな音を立ててトランクが開いた。瓦は後ろに回って、トランクから飛び出した工具やホイールブラシを見ていたが、その中にひときわ大きな荷物があることに気づいた。それを拾い上げてしばらく黙っていたが、野崎と二人が話しているところへ戻ってきて、鞄を目の前に投げた。
「これ、あんたのか?」
 掠れた校章の残るその鞄は、六年前に織島が置き去りにしたものだった。織島が何も言えないでいると、瓦はそれが一番の関心事のように続けた。
「正直に答えろよ。あの日、現場にいたのか?」
 野崎は、瓦が手のつけられない生き物に変身してしまったように、無意識に神沢と織島を庇いながら後ずさった。
「何なの? かわちゃん、怖いよ」
「どけ」
 その言葉の冷たさに野崎が凍りついていると、瓦は無言でランドクルーザーのリアハッチを開けた。野崎が声を上げるよりも早く、散弾銃を手に取った瓦は、再び神沢と織島に向き直った。
「どうして黙ってた?」
「住所から全部知られてて、怖かったからよ! 私たちは逃げたの」
作品名:Hidden swivel 作家名:オオサカタロウ