L K 「SOSの子守唄」
第五話 再出航
「航行速度は、出力70%を維持してください。それ以上では、船体剛性を保てる保障がありません」
「それでは、時間がかかりすぎるわ。どうせ眠ったまま行くのだから、爆発しても気付かないわ」
ケイは、あきれた顔で静止したあと、口角を上げて話を続けた。
「救難信号に添付されていた、最新の星図にある恒星をスウィング・バイすれば、滑らかな加速が得られますので、約2年半で目的ポイントに到達出来ます」
「それなら、救助に十分間に合うわね」
「まだ、生存者がいればの話です。それに事故ポイントには、亜空間断層があるようです」
「それをジャンプしようとしたのね」
「新型船の船体には、エネルギー防壁を展開出来ますので、亜空間の亀裂も越えることが出来るはずです」
「今までは問題なかったのに、どうしたのかしら」
「それはきっと、エルが作成してきた星図には、断層を避けたルートで記載されていたからでしょう」
「未知の宇宙域に入って、初めて亜空間断層に出くわしたけど、甘く見たのね」
「エル。本当に私のサポートがなくても、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、もう一体のアンドロイドを連れて行くから」
「そのモデルは、ミリタリーモデルですので役に立ちますが、私のような“やさしさ”は、持ち合わせていませんよ」
「・・・? あはは。驚いたわ。冗談が言えるようになったのね」
「はい。考えておきました」
「それを言ったら興ざめだけど」
「それと、タックも同行させてください。彼もその方が嬉しいはず」
「それじゃ、あなたの方が一人ぼっちになってしまうわ」
「いいえ。ニワトリやブタの方が、賑やかです」
「はははは。確かにそうね」
私たちは、急ピッチで出航準備を整えた。太陽系からの指示を問い合わせている暇はない。彼らは私に助けを求めて来たのだから、迷ってる場合じゃないわ。
でも、私が出発すれば、戻って来られるのは、6年も先。それまでケイに、この星の開拓を任さなくてはならない。もちろん彼なら出来る。でも、インフィニチウムの採掘も見通しが立っていないし、リンゴの木だってまだ植え替えていない。この星を開拓し始めたのは私だから、途中で置いて行くのは気が進まない。
(・・・いいえ、本当はケイを置いて行かないといけないのが、辛いのかも・・・)
2年5ヶ月後、私は人工睡眠から目覚めた。
また耳鳴りがする。
体が冷えているわけではないのに、暫くは足を思い通りに動かせない。
いつものとおり。でも今回は、慣れるまでゆっくりしている暇なんかないわ。あと数日で、目的の船に合流出来るはず。
私は、タックの様子を確認したけど、まだ起こさないで、水とパンを握って、コクピットに急いだ。居住スペースの遠心回転モジュールから出ると、体がふわりと浮き上がる。エネルギー節約のため、人工重力は切れている。言うことを聞かない体を、あちこちにぶつけながら、ようやく操縦席に座ることが出来た。
前方のエネルギー反応をスキャンしてみると、はっきりとエタニチウムの反応が出た。しかし、それは船体から流出してしまったようで、広い範囲に散らばってしまっていた。そこのどこかに難破船があるはず。
パンを水で押し込んだあと、念のため、タキオン通信で呼びかけてみたけど、やはり応答はない。電波通信でも呼びかけてみたら、ノイズの中に規則的な微弱信号をキャッチした。
「音波信号? これって、まさか、SOSモールス信号?」
こんな原始的な通信手段など、数百年使われていないはず。でも、電波に干渉して、かすかだけど音波の痕跡をキャッチ出来る。これを手がかりに船を探し出せるかもしれない。
アンドロイドを起動しようと、格納庫に行く途中にタックを目覚めさせた。あの時、ケイがこの子を連れて行くように助言したのは、やさしさのように感じたわ。あれから2年以上経っている。まさかケイ、寂しがったりしていないかしら。
『エル。必ず戻って下さい』
ケイは出航前、私の船から着陸船で基地に降下する時、モニター越しにそう言った。もしあの時、目の前に彼がいたら、私は彼を抱きしめていたかもしれない。でも、一人で救助に来たのは、これが私に与えられた使命だから。どんな危険な任務でも、感情を挟み込んではいけない。今の私には感情など、邪魔なだけ。
タックにドライフードと水を与えて、頭をなでてあげてから、その部屋を後にした。
格納庫はとても寒く、騒音がうるさい。以前は何とも思わなかったけど、今はこんなところ嫌い。
アルコーブに設置されたアンドロイドのストレージケースを開封して、起動コマンドを入力すると、その男はすぐに目覚めた。首を動かして周囲を確認した後、
「自分の役割の概要説明を求める」
ケイの時と同じ、無表情で話した。
「難破船のクルーの捜索を手伝ってちょうだい。あなたのマニュファクチャー番号は?」
「俺は、SS3100-634P00412Jだ」
「私はエル。あなたの名前は、『J(ジェイ)』よ。よろしく、ジェイ」
「理解した。エル、指示を頼む。」
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)



