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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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L K 「SOSの子守唄」

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第六話 難破船



 不可解なSOS音波信号の発信源までは、あと二日の距離にいることが分かったわ。難破船発見のため、ジェイにセンサースキャンの作業を任せて、私は自分の部屋でケイからのメッセージを確認することにしたの。2年半の間にかなり溜まっているようね。
 私は照明を暗くしてから、タックを抱き上げ、それらのメッセージを連続してスライド再生に設定にした。すぐに薄暗い空中に、3D再生されたケイが現れた。

『エル。無事目覚めましたか? エルが出発してから3日です。今日からインフィニチウムの採掘を再開しますが・・・』

『エル。おはよう。7日目の朝は、驚きがありました。ブタが子供を産んだので・・・』

『エル。今日、リンゴの木をドームの外に植え替えました。あなたの希望通り、日当たりのいい・・・』

『エル。ついにインフィニチウムの反応が確認出来ました。一人でアクセスするには・・・』

『エル。あなたが私を起動して、今日で9ヶ月が経ちました。この星の一公転周期です。つまりこの星でのバースデーを一人で祝うことに・・・』

『エル。一人きりの一年が過ぎ、雨の季節が終わり、リンゴはたくさん実をつけました。この星の名前を“アップル”と呼ぶことにします・・・』

『エル。2年が経ちました。あなたが無事、目標座標に近付いているのを、こちらでも確認出来ています・・・』

『エル。もうすぐ、目覚める頃ですね。あなたにとっては昨日のことですが、私は、2年半待ち続け・・・

 ケイのメッセージをすべて確認するのに、13時間かかった。作業報告以外に、個人的な内容も多かった。敢えて人間的な話し方を練習してるのね。最後のメッセージには、彼の気持ちが込もっていたように感じるわ。私には昨日のことですって? こんなに離れているんだから、私もケイに会いたいのよ。

『・・・あなたにとっては昨日のことですが、私は、2年半待ち続けています。エル、あなたが恋しいのです』
 膝の上のタックが、空間モニターに映るケイの顔を見て、「ニャー」と寂しげに鳴いた。

 *ピピピピ!(呼び出し音)
[エル。コクピットへ早く。船を発見した]

 本船は、その難破船とのランデブーポイントに到着した。それは亜空間断層から予想以上の距離を漂流していた。

「ごく小規模のブラックホールに引き寄せられているようだ」
「長距離スキャンでは、そんな数値は計測出来なかったわ」
「亜空間断層の影響で、隠れてしまっていたのかもしれない」
「まだシュバルツシルト半径(ブラックホールからの脱出不能距離)からは程遠いわね。この距離なら遭難する危険はないだろうけど」
「しかし数年でブラックホールに飲み込まれてしまうだろう」
「物資の回収は今回が最後のチャンスになるわね。何年もかけてアップルと往復出来ないわ」
「アップルとは?」
「私の星の名前よ」

 私は残り少ないエネルギーを使って減速し、回転している相手船体に速度を合わせ、周回する形で相対的静止状態を維持した。
 思った通りその船は大きく損傷している。大破した船体は四方八方に散らばったはず。運よくこの船体の一部だけ、SOS音波信号のおかげで見付けられたけど、小さな船体部分は探す手立てがないわ。スキャン結果を見なくても、船の自力航行は不可能、クルーの生存も絶望的だわ。

「向こうに乗り移って、事故原因の調査をします」
「了解」

 ドッキングハッチは大破していたから、ジェイと二人、宇宙服を着て泳いで行くしかないわ。
 宇宙遊泳はあまり好きじゃない。音が嫌いだわ。宇宙は無音だけど、余計に宇宙服の中で体の擦れる音がして、ガサガサと騒がしい。体を動かさないようにじっとしていると、私のメカニカルな心臓の動作音が聞こえてくる。
 ジェイと私は、船体に開いた亀裂から船内に入った。生存者がいるなら、人工睡眠キャスケットの中しかない。暗く浮遊物だらけの船内を慎重に進み、一番にその部屋に向かった。

「音波信号が発信されているのはこの部屋からだが、SOSではないようだ」
「何だったの?」
「規則性のあるリズムだが、俺には解からない」
 ジェイが動かない扉を突き破って開けた。
「すごい力ね」
「俺は本来、戦術型として設計されているもので」
「戦闘用? なんだか恐いわね」
「コワイ? 奇妙なことを言うんだな。仲間に危害を加えることなどない」
「アンドロイド同士でも?」
「ヘヘッ、敵なら手加減はしない」
「やっぱり恐い」

「あそこだ」
 人工睡眠キャスケットが8台並んでいる。供給エネルギーは落ちている様子。
「中にいるのは5名ね。生存者を確認して」
「3名死亡、この二人は大丈夫だ」
「よかった。それにこの音は、SOSじゃなく“ミュージック”ね。初めて聴いたわ」
私はその生存者見て息を呑んだ。
「一人は子供だわ」
初めてこの船を訪問した時に見かけた、通路を走っていた子供だった。
「ミュージックは、このキャスケットの中から発信されている」
「どういうことかしら? すぐに私の船に移してちょうだい。私は捜索を続けます」
「了解だ。遺体はどうする?」
「同じく持ち帰るわ」
 通常、殉職したクルーは、キャスケット(棺)に入れたまま、宇宙に放置するのが慣わしだけど、こんな場所じゃ孤独すぎる。アップルに連れ帰って、昔ながらのお墓を立ててあげようと思う。

 3人の遺体と二人の生存者の入った人工睡眠キャスケットを移動させる間に、私はこの船のブリッジに向かった。そこには、既にフリーズドライ状態の遺体が二体漂っていた。
 コンピューターは死んでいたが、航行記録やクルーの日誌を含むデータの大部分を、私の船に転送することは出来た。これで事故原因は解明出来るだろう。
 その後、船内の隅々まで捜索したが、生存者は見つからなかった。生体ラボに人工睡眠で大量に運ばれて来た動植物も、生きていれば回収したいわね。そこで、ストレージケースに入ったアンドロイドも、一体だけ見付けていた。それは頭部に損傷を負ったF型(女性型)だったの。SS3200のようね。私以外のF型は見たことがなかったから驚いたわ。
 そのアンドロイド一体と5人の遺体、二人の生存者を私の船に回収した後、生存者を目覚めさせることにしたの。アンドロイドの女性は、既に故障していて起動出来なかったから、生存者に物資の回収を手伝ってもらうことにしたわ。それに事故の発生状況を知っているかもしれないから。
 子供は寝かせたままにしてあげようと思う。ミュージックの謎は確かめなければならなかったけど。