L K 「SOSの子守唄」
軌道上の私の船に、巨大な新型科学調査船がドッキングした。私は、船長に面会するために、その船に乗り移った。そこのクルー達は初対面の私に、笑顔ではなく、敬礼で挨拶をした。
私は補給品の積み込みを指示した後、船長室に案内されたけど、その途中、広く明るい通路には子供が3人走っていたわ。28年の旅航で、クルーの間に子供が出来たようね。
船長とも敬礼を交わした。船長の話によると、私は『伝説の宇宙飛行士』なのだそうだ。私にも聞きたい事がたくさんあったのに、船長は私のそれまでの経験に関心があるようで、私に質問させる暇を与えてくれない。以前の私なら、この形式ばったやり取りのほうが得意だったろうが、今は何か物足りない気がする。
クルー全員に、この星での開拓の様子を見て欲しかったけど、作業スケジュールの関係で、地表に降りられるものは6名と限られていた。その6名も、補給物資の積み込みに忙しく、農場をゆっくりと見学出来る時間は持てなかった。それでも彼らは、私が栽培した生のジャガイモを食べてくれた。料理をする時間が無かったせいで、申しわけなかったけど。
やがて、彼らはこの星を旅立ってしまった。本来私に託されていたミッションを、ここで引き継いだわけだ。
私は彼らの船に乗って、この星を離れることは出来ない。そういう命令になっていたから。人と付き合うのが苦手で、一人でいる方がいいと思われているので、仕方が無い。
しかし、この星で一人、彼らの到着を待ち望む間に、私にも人間性が育って、彼らと離れるのは寂しい。人間はもっと感情表現が豊かで、笑顔で接するものと思っていたが、長い宇宙旅航の間に、彼らの感情は乏しくなってしまったのだろうか。皆がまるで機械のように行動していることに私は違和感を覚えた。これが本来の人間で、私が想像していたのは、間違いだったのかしら。
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)